ふたりの夫、ふたつの生活。あったかもしれない、もう一つの人生

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 夫を名乗る男は祐子に秘密で、パーソナルトレーニングを頼んでくれていた。おかげで、祐子はがっつり、トレーニングをする羽目となる。 「腕をぐっと引いて、肩甲骨を意識して! そう、それ!! 十回三セット、ゴー!!」  祐子はトレーニングしながら、考えた。どうしてお金を払ってまで、疲れることをしなきゃいけないんだろう。前々から思ってはいたけれど、ジムに通ったりジョギングしたりする人は所謂、上級国民ではないか。庶民は運動をしなくても、一日働いてヘトヘトになってしまうから。  祐子はマンションに戻って、ゆっくり風呂に入った。昨晩はリビングに男がいて、落ち着いて入れなかったから。浴室内のボタンをあちこち押してみる。すると、ジャグジーバスに様変わり。泡が次々と湧いてきて、祐子は何だか楽しくなる。 「ジャグジーなんて、独身時代、パパとラブホへ行って以来だわ、箱根の」 祐子はふと思う。「ユウコさんは毎日、こんなお風呂に入ってるんだぁ。まさか、あのイケメン旦那と?」こうなると、妄想は止まらない。「セックスもしてるのかな? あのベッドだもんね。子供だっていないし、気兼ねなくできるわよね。うちなんて、寝室も別々だし。今更、面倒で、セックスの仕方も忘れちゃった。キスさえする気も起こらないわぁ」 祐子は不意に、昨晩、夫を名乗る男にキスをされたことを思い出し、その頬に手を添える。 「久しぶり、だった......うん。そして、不覚にもトキめいてしまった」  入浴後はルイボスティーをいれて、昨日、銀座で買ってきたキルフェボンのケーキを食べた。さっき、男から帰りは最終電車になるので、「夕飯はいらない」「駅まで迎えを頼みます」というメッセージを受け取った。その時間まで何していよう。これだけの時間を自分のために使えるのは何年ぶりだろうか。祐子は戸惑いしかなかった。のんびりテレビでも見ようとも思ったが、結局、家じゅうをピカピカに磨き上げ、彼女の一日は終わった。  祐子は深夜、車に乗って、駅へ向かう。コートの下には、シルクのパジャマを着ていた。南口のロータリーに車を止めて、いつものようにFMラジオを聞く。さすがに気疲れが続いたせいか、ウトウトしていると、バンと車のドアが大きく開いた。 「あ~、疲れた」
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