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手が離れてラクにはなったとは思うが、最近はやたら注文が多くて、別の意味で大変だった。その上、子供たちの注文に応えても、「ありがとう」どころか、笑顔を向けられることもない。不愛想で反抗的。昔は母を取り合うほど、ママが大好きな子供たちだったのに......。祐子は心が折れる度、お守りがわりに携帯に保存している幼い頃の写真を見た。それは祐子の右頬に5歳の翔平が、左頬に2歳の彩佳がキスしているもの。先日、夫を名乗る男のマンションで彼に見せようとした写真だ。あの夜は消えていたが、うちに帰った翌朝には復元さ
れていた。旦那の番号もメタボ旦那のものが登録されていて、着て帰ったはずのシルクのパジャマもいつの間にかなくなっていた。あの男と過ごした時間はやはり夢だったんだと、改めて思う。
祐子は朝の家事を一通り終えると、自転車に乗って、夫の実家へ介護に赴く。義母は六十九歳。昨年、脳梗塞を発症し、その後遺症で要介護となっている。ケアマネジャーからは昼間、施設に預かってもらうデイケアやデイサービスを利用するよう勧められて見学したが、「年寄りばかりで辛気臭い」と毛嫌いし、家にいることを選んだ。ところが、訪問の介護ヘルパーとも「年寄り扱いするな」と喧嘩をし、すべての介護サービスを拒否してしまった。結局、長男の嫁である祐子がパートを辞めて、面倒を見ることになる。パートとはいえ、栄養
士として復帰した矢先のことだった。しかし、義母は嫁が見て当然と、絵に描いたマウントぶり。また、義父は手伝うどころか、自分でお茶一ついれない昔気質で、祐子はこの家の家事も一手に引き受けることになる。もちろん、こちらも嫁なら当然でいう態度で、感謝の言葉ひとつない。たまに小遣いをせびりにくる実の娘の方を可愛がっていた。
一方、実の息子である和孝も「ったく、親父もお袋も昭和だな。今は平成も終わって令和だぞ」と共感してくれるものの、休日もゴルフなど接待があって、家事も介護も手伝おうとしない。それこ
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