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そ、昭和の亭主であった。時代錯誤極まりない夫家族。その一方で、世間様からは、「専業主婦は気楽でいいわね」と言われるけれど、365日24時間時間休みナシ、給料ナシ、家族からの感謝の言葉ももちろんナシ。気楽と言うならば、世間様もこんな生産性ゼロの虚しいだけの生活を一度、送ってみればいい。なんて、昔は毒づきたくもなることもあったけれど、こういう人生を選んだのは自分自身。自分の居場所はここだけ。自分は家族に必要とされていると、祐子は自負し、生きてきた。そして、あの夜、夫を名乗る男と出会い、夢のような時間過ごしたことも重なって、その思いは一層、強くなる。今の祐子にとって、家族ほど大切なものはなかった。
再び水曜日がやって来た。
彩佳がこの日、進路についての書類を学校から持ち帰ったのもあり、夕食後、祐子は将来のことを娘に尋ねてみた。しかし、彩佳は相変わらず、恋愛バラエティー動画に夢中で、「......わかんない」と生返事を繰り返すばかり。
「わからないって、来年は3年生なのよ」
「受験はするよ。けど、まだ将来のことなんて、わかんないよ。そうだな。今、わかってることは......」
「わかってることは?」
「ママみたいな人生だけは絶対にイヤ!」
「え?」祐子の耳の奥が刹那、キーンとした。
「朝から晩まで家事して、空いた時間はおばあちゃんちで介護でしょう。ありえない、自分の時間がイッコもないなんて」
「しかも、給料もゼロだぜ。専業主婦って、かなりのブラックだよな」
これには、翔平も加わった。また、牛乳をパックから直飲みしながら。普段はソリが合わない兄と妹がいつになく共闘する。
「彩佳、気づいてたか? 親父、iPhone、最新型に買い替えてた」
「サイテー! 私なんてスマホ禁止なのに。ねぇママ、パパに言ってよ」
「いやいや、言えないだろう。未だにガラケーだし」
「そうだった......」
「親父、お袋やお前に頭が上がんない振りして、かなりの亭主関白だからな」
「そうなの?」
「いつも『疲れた』って仕事を言い訳にして、なんもうちのことやんないじゃん。休みの日も遊んでばっか」
「しかも、ケチ。ママ、誕生日とか、お祝いしてもらったことないでしょう。結婚記念日だって」
「必要なものは、買ってもらってるわよ」
「じゃ、そのセーターなんだよ、ほつれて。俺が小学生の時から着てるだろ」
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