ふたりの夫、ふたつの生活。あったかもしれない、もう一つの人生

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「はぁ......」メタボ旦那は私なんかに話してもわからないと思っているんだろう。圭一郎さんは何でも話してくれるのに。祐子は気が付くと、2人の夫を比べていた。  山内がメタボ旦那の行き先を確認するため、営業二課メンバーのスケジュールが明記されたホワイトボードを見やる。祐子もつられるように、そちらを見ると、とある病院の名前が書かれていた......。 「......嘘でしょう」  その日(金曜)の夜――。  夫・和孝はいつもより早く帰宅し、ユウコさんと、子供たちの4人で食卓を囲んでいた。夫は鼻の下を伸ばし、子供たちも笑っている。笑顔で囲む食卓など、祐子はもう何年も見ていない。しかも、それを庭の生け垣から覗くなんて悔しいやら情けないやら、怒りで腸が煮えくり返る。 「......返して」  祐子は家族を取り戻すべく、玄関の門扉に手を掛けて、中へ入ろうとする。ところが、その手が掴まれる。暗くて顔はわからなかったが、この半年、何度もこうやって手を掴まれてきた、その感触は忘れてはいない。――圭一郎だ。 「今日、うちの病院に来たの、やっぱりユウコさんだったんだね」 「ここは私のうちよ。手を放して」 「頼む、ユウコさん」 「簡単に名前を呼ばないで」 「今日が最後だから」 「最後って......。医者って変態が多いってのはホントね」 「ヘンタイ?」 「スワッピングっていうんでしょう? 夫は仕事の成績を上げるためにあなたの悪趣味に付き合って、私は夫婦交換に差し出された!」  夫・和孝の会社で祐子が見た彼の営業先は、圭一郎が勤める大学病院だった。山内によると、営業二課は耳鼻咽喉科や眼科を専門にしていて、和孝はその大学病院と系列の眼科を担当し、今年に入ってから、一気に売り上げを伸ばした。 「今年に入ってから? まさか......」  祐子の中で、2人の夫が繋がっているのではないかという疑念が芽生える。
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