ふたりの夫、ふたつの生活。あったかもしれない、もう一つの人生

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 祐子はその足で大学病院に向かった。案内板で眼科の外来を確認し、診察室へ。そこで、和孝が眼科の診察室から頭をペコペコ下げながら出て来るところに出くわした。祐子は咄嗟に柱の陰に隠れる。すると、もう一人の夫・圭一郎も続いて出てきて、和孝に「こちらこそ、ありがとうございます」と恭しく頭を下げた。なんで......? 何が「ありがとうございます」なの? 医者がイチ営業マンにそんな頭を下げる? 祐子は混乱して、何が何だかわからない。逃げるようにして、その場を後にした。――圭一郎に気づかれたことも知らずに。   呆然として、祐子は街を彷徨い歩く。ふと、ネットカフェの看板が目に入った。知りたい......。今、自分の身に起きていることが知りたくて、その店に吸い込まれていく。そして、そこに設置されたパソコンで検索する。「夫」「入れ替わる」といった言葉を打ち込んで――。すると、『夫婦交換』『スワッピング』といった目に覆うような、卑猥な言葉が出てきた。しかも、それを画像で見てしまい、忽ち気持ちが悪くなる。圭一郎に焦がれ、彼との生活を楽しみにして、 夢見心地だった自分が心底、恥ずかしい。しかも、子供たちまで巻き込んで......。  この時、動画が再生され、部屋の中に女の喘ぎ声が響いた。ついに耐えらず、祐子はトイレに駆け込み、吐いてしまう。 「うちのリビングにいる人は、あなたの奥さん......?」 「すまなかった」  圭一郎は夕方、和孝にしたように、祐子にも大きく頭を下げてきた。 「......頭を下げれば許されると、思ってるの?」 しかし、圭一郎は自分のことは許さなくていい。ただ、ご主人は悪くない、責めないでやってくれと訴える。 「どうして? うちの夫は悪くないの? 仕事の成績をあげるために妻を差し出したのよ。一体、いつの時代よ。昭和を通り越して江戸? 越後屋に、代官様?」 「だから、誤解だって」 「誤解? 何が? どこか?」 「ユウコさん、落ち着いて」 「これが落ち着いていられますか? 夫婦交換なんて、いやらしいことに巻き込まれたのよ!!」 「悪かった」圭一郎は周囲を気にする。 「しかも、妻の私に無断で。あなたのユウコさんは納得してるの? あんな笑ってるから、満足してるのかしら。ホント、上級国民の考えることって理解できない! 下品、下劣、汚らわしい!!」
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