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ユウコさんは言葉を続けた。
「だけど、その人生がね、ある日突然、1年と言われたの。――すい臓がんよ」
祐子は返す言葉がない。一方、圭一郎は悲しく目を伏せる。
「でも、だからって、あなたを騙して、あなたの人生を一時的であっても、生きる理由にはならないと思う。......ごめんなさい」
と、ユウコさんは深く頭を下げた。
「......どうして? 正直に話してくれれば、私だって」
「同情されたくなかったの」
「同情?」
「今、あなた、私をかわいそうだって、思ってるでしょう」
......図星だ。
「あなたにも、和孝さんのご家族にも、同情されたくなかった。ただの人として、接してほしかった」
「その気持ちは......、わからないでもないけど......。でも!」
「でも、今日で終わりだから」
ユウコさんは遮るように、哀しく微笑んだ。圭一郎によると、ユウコさんは週明け、九十九里浜にあるホスピスに入るという。今日は伊藤家との最後の晩餐として、和孝にも特別に早く帰ってきてもらったのだという。
「三週に一度、体調を整えて、奥さんとして、お母さんとして、お嫁さんとして、幸せを堪能させてもらったけど、さすがに体力も気力も限界......」
「......大丈夫か?」圭一郎が支えようとするが、ユウコさんは同情されたくないのか、あくまでも毅然としていた。
「本当に幸せだった。ごめんなさいね、祐子さん。そして、ありがとう」
ユウコさんは、夫の圭一郎に「帰ろう」と促す。「でも、まだ食事中だろ?」
と躊躇いつつも、圭一郎は祐子を気遣い、それを受け入れる。なんだか、祐子はやるせない。まるで私、悪者じゃない。今日初めて会った人だけれど、このまま終わりにしたら、きっと後悔する。絶対に遺恨となる。だから、決めた。
「最終電車まで、時間はまだあるわよ」
「え......?」刹那、戸惑うユウコさん。圭一郎も「いいの?」と祐子を見た。しかし、うちの中からも、
「ユウコサン、どこ? ケーキ食べよ。俺、腹へったぁ」
「翔平は食いしん坊だな。ユウコサン、最後に写真を撮りますか」
「やだ、パパ、最後だなんて言わないで。また、遊びに来てくれるよね?」
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