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インテリア。そして、大きな窓からは、東京湾の夜景が臨めた。うちから車でほんの少しのところに、こんなラグジュアリーな生活空間があるなんて、圧倒されると共に、窓の掃除が大変そうだなと、つい主婦目線で見てしまう。
「ユウコさん、赤でいい?」
部屋着に着替えた男がワインセラーを開けて、ワインを選んでいる。
「待って下さい。私は」
「白がいい? それとも、シャンパンにする?」
「あの、これ、新手の連れ去り......監禁ですか?」
「カンキン?!」
「監禁しても私、オバチャンだし、何の得もないと思うんですけど」
「何、言ってんの? つまみはチーズでいいよね」
「......監禁じゃないとすると、誘拐ですか? でも......、うちの旦那、平凡なサラリーマンだし」
「悪かったね、勤務医で」
「身代金なんて、びた一文も払えませんよ。子供たちの教育資金もありますし。あ、まさか、マグロ船に売り飛ばす気ですか? でも、オバチャンだから体力ないし、猫の手にもならないかと......」
「ユウコさん、コート脱いだら?」
コートなんて、脱げるわけがなかった。この下はよれよれのパジャマを着ていて、彼女が唯一、自慢できるとしたら、その下の......病気知らずの健康な体だけ。
「わかった! 臓器目的でしょう! それなら、オバチャンでも需要があるかも」
「オバチャンって......。祐子さん、どうしちゃったの?」
「私、帰ります。今頃、うちのメタボ旦那が駅で待ってるんです、この寒い中。電話してあげないと......」
祐子は携帯を出して、夫に電話を掛けた。夫の番号は、「旦那」と登録されている。ところが、鳴ったのは――目の前にいる、夫の名乗る男のスマホだった。
「......なんで?」
通話ボタンを押して、電話を取る男。
「僕があなたの旦那だからです」
確かに、その声は電話の向こうからも聞こえた。
「うそでしょう」
追い打ちをかけるように、リビングに飾っていた写真が祐子の目に入る。
「まさか、私......?」
思わず、写真立てを手に取った。そこには、純白のウェディングドレスを着た若かりし頃の祐子と、ライトグレーのタキシード姿の男が並んで、写っている。
「......やだ、私たち、本当に結婚してるの?」
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