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男によると、2人はノストラダムスの予言から2年後の2001年に結婚。子宝には恵まれなかったものの、夫婦仲良く暮らしているという。
祐子の頭は真っ白になった。一体、どういうこと? 何が起きているの?! 落ち着け、私。落ち着くの。私にはメタボ旦那と、翔太や彩佳がいる。義父母だっている。私が帰らないと、勝手気ままな我が家は回らなくなる。帰らなきゃ。どうしたら、わかってもらえる? 私があなたのユウコさんじゃないって証明できる? そうだ、子供たちの写真だ。祐子は自身の携帯を探る。ところが、子供たちの画像は一枚もなかった。どういうこと? なんて、考えている場合じゃない。次にバッグを開けて、身元を証明するものを探す。あるある、「伊藤祐子」名義の免許証に保険証、そして、クレジットカード......。そして、男に胸を張ってそれらを見せるが、
「だよね」と、彼は苦笑いした。
彼も伊藤姓だった。しかも、彼に指摘されて、初めて気づく。免許証や保険証の住所が、こちらの区になっている。
祐子は唖然として、言葉も出ない。駅からの出来事を反芻して、整理しようとするが、頭の中は余計に混乱するばかり。
「もう、何が起きてるの......。全然、わからない! 誰か!!」
溜まらず、髪の毛を掻きむしる。
「そんな、自分を虐めないで」男は祐子の手を掴んで、彼女のボサボサになった髪を優しく撫でつけながら、こう言った。
「ユウコさん、疲れてるんだよ」
「......」確かに、疲れている。
「今夜はもう寝よう」
「......ね、寝る? あなたと?」祐子は改めて、身構えてしまう。男は苦笑いし、
「また、怖い顔して......。わかったよ、僕はここで寝るから」
祐子は男に寝室へと案内される。その部屋にはクイーンズサイズだろうか、大きなベッドがどんと置かれていた。ベッドの上には、夫婦の色違いのパジャマもある。おそらくシルクだろう。男は自身のパジャマを手に取って、
「おやすみ、祐子さん」
と、祐子の頬に軽くキスをして、部屋を出ていった。
「......」祐子はキスの跡に手を当てる。一体、自分の身に何が起きているのか、未だ一向に訳がわからない。半ばヤケクソで、ベッドに倒れこんだ。
「......この広さなら、大きくなった子供たちとも川の字で寝られるわね......」
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