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「男に振られたのか。よくある話だな」
「よくある話じゃないよ。初めてだよ。彼氏と別れたの」
人面犬は私の話に耳を傾けてどうでもよさそうに呟いた。怒りをぶつける相手ができた私は、人気のない公園でぎゃんぎゃんとわめきたてる。
「肩より下のストレートヘアの子が好きっていうからさ、ストパまでかけたんだよ。私、ショートヘアの方が好きなのに」
「今の髪型も似合ってるぞ。前の髪型がどんなだったか俺は知らないけど」
「それからね、女の子らしい服装が好きっていうから、スカートはいたりレースつきのブラウスとかも着たの。アクセサリーまでつけるようにしたんだから。本当はショートパンツとか、カジュアルな服装が好きなのに」
「ついでに好きでもないネイルをして、お化粧して、それから…なんだ」
「香水もつけた!」
人面犬に向かってくわっと怖い顔をしてみせてからちょっぴり笑った。
「私、バカだね」
「それがわかっただけ良かったじゃねえか」
好きな男の好みに合わせようとしてすっかり振り回されていたのだ。散々相手の言いなりになって、最後に別れようだ。谷底に突き落とされた気分だった。涙があふれてきて慌てて上を向いた。郊外とはいっても空は明るい。数えるほどの星と三日月しか見えなかった。
「人面犬さん、優しいね」
「おい、失礼だぞ。俺にはロナルドという立派な名前がある」
「ロ、ロナルド?」
思わず噴き出した真奈に、また失礼なお嬢さんだとぶっきらぼうに言った。
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