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「あ~。なんかスッキリしたかも。また新しい恋さがそ」
「元気になったなら良かったよ」
人面犬は丸まって居眠りでもしそうだった。真奈は自販機に目を向ける。人面犬って一体何を飲むのだろうかと気になった。
「何か飲まない?話を聞いてくれたお礼に、何かおごるよ」
「酒」
間髪いれず返ってきた言葉に真奈は困った。お酒は多分、ここの自販機には売っていない。そもそも真奈は未成年だ。買うのはまずいだろう。
「ねえ、ごめん。ジュースかお茶じゃダメ?私、未成年だから買えないよ。ねえ、人面…じゃなくてロナルドさん」
丸まったロナルドの身体をゆさゆさすると、真奈の方に顔を向けた。真奈はぽかんと口を開ける。先ほどまで張り付いていたおじさん顔ではなく、ブルドッグの顔だったからだ。
「あの、あれ?ロナルド?」
わんっという声が返って来てさらに驚いた。普通の人間と話すように話していたのだ。一体何がどうなっているのだろう。首を傾げる真奈の耳に一人の青年の声が響く。
「ロナルドー!ロナルド!どこ行ったんだ!」
怒ったような心配したような口調は、逃げた愛犬を探す情けない飼い主そのものだった。真奈の方に目をとめて大きな声を出した。
「ロナルド!」
真奈はびくりと身体を震わせる。さらさらとしたストレートヘア、幼さを残した顔立ちは弟キャラとしてモテるだろうなと思う青年だ。真奈の方へすまなそうに会釈して、ロナルドを抱き上げる。
「すみません。散歩に行こうとしたら逃げてしまって。何か悪さしませんでしたか?」
真奈は驚きの連続で身動きすることもできず、言葉を発することもできずただただ青年の顔を見つめていた。
「あの、こいつ、何かやらかしましたか?」
心配そうな表情にやっと真奈は首を横に振った。
「いえ、何も。私、ちょっと辛いことがあって落ち込んでいたから、ロナルドさんと一緒にいて落ち着きました」
こちらこそありがとうございましたと頭を下げると、青年がぷっと噴き出した。
「ロナルドさんだなんて、普通にロナルドでいいっすよ」
くだけた調子になった青年に真奈は笑った。何が何やらわからないが、不思議なことが起きて真奈の抱える悩みはいつのまにかすっかり解決したらしい。しかも新しい恋の予感つきだ。
二人で笑い合っているうちに自然と夜の散歩をしようという話になった。ロナルドを連れて一緒に。
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