門の向こう側

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(まあ、そういうこともあるか)  たまたま散歩に行きたがらない子とかいるよな。そんな感じで僕は気に留めなかった。しかし三度目に遭遇するとさすがにおかしいと思い始めた。  明らかに毎回違う犬をつれている気がする。しっかり見ているわけではないが、大型犬などの特徴的なものは流石に記憶に残っていた。  この時、僕はイヤな予感がしていた。もしや、噂の多頭飼育崩壊というヤツではなかろうか。だからちょっとみすぼらしかったり、毎回違う犬を連れているのでは?  だいたい、朝とはいえ今の時期は暑い。ランニング中によく見かける飼い主も、夕方や夜に時間を変えていることが多かった。まっとうな飼い主ならそうするはずだ。  気になった僕は、その女性と同じ時間にランニングするようになったのだが……それが間違いだった。 「おはよう」  なんと、女性も僕の顔を覚えていたのだ!  一度目は適当に頭を下げたが、流石に毎回無視をするわけにはいかない。次から僕も挨拶を返した。そして、自然と会話を交わすようになった。 「学生さん?」 「はい……」 「精が出るわね。頑張ってね」  女性は一見すると人当たりが良さそうで、こんな人が本当に虐待をしているのかと僕は疑問になった。しかし、犬の姿を見れば歴然だ。あまり良くない扱いをされていたことがわかるし、僕が撫でようとしたら触らないようにと言われてしまった。 「ごめんなさい。人を怖がる子もいるから。噛みついたらいけないし」 (噛みつくってことはやっぱり……)  僕はインターネットで飼育崩壊について調べていた。必ずしも悪徳ブリーダーのせいとは限らず、ゴミ屋敷のように飼い主の心の病気でなってしまうこともあるらしい。あまり悪人には見えないあの女性もそうなのかもしれなかった。  通報するにしても、相手の家の場所がわからないと動物愛護センターにも連絡できない。とうとう僕は思いきって女性の後をつけることにした。
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