門の向こう側

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 その日、僕はランニングを装って女性を探した。彼女はいつもの散歩コースをほとんど同じ時間に歩いていた。 「おはようございます」 「おはよう。毎日暑いわねぇ」  犬たちも口を開けてハッハッと荒い息を吐いていた。言わなくてもいいのに、僕はつい「わんちゃんたち、暑そうですね」と嫌味を言ってしまった。 「そうね。普通の飼い主さんは夜とかもっと涼しい時間に行ってあげているんでしょうけど……」  わかっているならなぜ?  僕のいぶかしむ目に気づいたのだろう。女性は気まずげに目を伏せた。この時点で僕は気づくべきだった。 「上の許可がおりなくてね……それでもまったく外に出ないよりはマシだから、こうして出してあげてるんだけど……」 「許可?」  思わぬ言葉に、僕は驚いて女性の顔を見た。 「本当はいけないんだけど、可哀相だから上司にムリを行って散歩に行かせてもらっているの。このままずっと外に出られないなんてあんまりでしょ?」  ーーその時、僕は初めてとんでもない思い違いをしていたことに気が付いた。  いつも一言二言会話を交わすくらいでじっくりと犬の方を見たことがなかったのだが、首輪に番号のようなものが書かれたタグがついていた。  それに、犬たちは見た目は悪いが目は生き生きとしていた。穏やかそうだった。この心優しい女性との散歩を純粋に楽しんでいたのだろう。僕は最初にレッテルを張って、相手をきちんと観察することを怠っていた。
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