門の向こう側

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 今年も夏が来た。あの忘れられない出来事のあった季節が。  このくらいの時期にこうして外を走っていると今でも思い出してしまうのだが、僕には一つのほろ苦い思い出があった。  浅い正義感や行動力がどんな結果をもたらすか。僕はその夏にイヤというほど学んだのだった。  ーー高二の夏。 (毎日毎日あっついなぁ)  ランニングの時間をいつもより早くしたのに、それでも暑い。僕は首にかけたスポーツタオルで流れる汗をぬぐいながら、アスファルトの上を走っていた。もうニ時間も経てば路面に陽炎が浮き始めるだろう。  今は夏休みだけど、体力を落とさないようにするには日頃のトレーニングが大切だ。僕は陸上部なので、秋の大会に合わせて体作りに励んでいた。  ふと前を見ると、たくさん犬を散歩させている女性がいた。五頭以上はいる。どの犬も夏の匂いをかぎながら力強く歩いていたが、どこかくたびれた感じがした。僕は気になって、少しスピードを落としてゆっくりと追い抜いた。  追い抜く時にチラリと女性の顔を見る。四十代くらいだろうか。あまり綺麗にしていない感じの、同じく疲れた感じの女性だった。  その時は特に気にせず僕はランニングを続けたのだが……別の日の同じ時間帯を走った時だった。またその女性と遭遇したのである。どうやら散歩コースのようだ。  しかし、二度目にして僕は違和感を覚えた。……なんだか、犬の数が前より減ってないか?
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