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『家族ごっこ』
①とんだご縁
何とも滑稽で珍妙な出会いだった。
その日、私は真夏の炎天下で日傘もささずバスを待っていた。
数日前の梅雨明け宣言とともに真夏到来で、それまで毎日毎日カビるほどの雨空が一転、まるで一本線を跨ぐようにカラリと太陽が顔を覗かせた。
そして、それからは毎日ギラギラと暑い。
暑さのせいで陽炎が湧き上がり、通りの向こう側の人影もゆらゆらと揺れている。
地上から湯気が上がっているみたいに。
風景が全部、絵画にグレーズを掛けたみたいにぼんやり見えた。
私の頭もまた、このアスファルトと同様に熱く沸き立っていた。
ほんの数十分前だ。
お役所の職員から冷笑混じりの説明とも説得ともつかない、突き放すような冷たい処遇を受け早々に相談に終止符を打たれ帰されたのは。
マジでムカついた。
「誠実さをまるで感じない。やる気ないなら言い出すな。嘘つきめ。」
役所を出て坂道を下る途中、何とも耳障りの良い行政が打ち出した助成案のチラシに一人毒づく。
この年の初めから今日に至るまで、全世界を奇病が跋扈している。
政府が「外へ出てはいけない。」と宣言を出して以降、世界は妙な方向へと動き出した。
自宅から職場へ通うという日常が一変。
自宅で大人しく自粛して、買い物も週に一回、密閉された空間へ行ってはいけない、人と密着して話してはいけない、接近してはいけない…それからそれから…。
自宅からリモートで職務をこなす企業も増えた。
そうした事でご近所トラブルも増えた。
あらぬ事でテロリスト呼ばわりされる人も、それをヒーロー気取りで匿名で断罪する輩も増えた。
巷を賑わすニュースを見聞きするたびに辟易する。
踊らされる自分も大概なのか、考えると…思考が止まる。
もう、うんざりだ。
私の職場もご多分に漏れず自粛になった。
あいにくリモートなんてそんな融通が利く職場ではなかったので、上からの鶴の一声で翌日から自宅待機という自粛生活を一カ月以上も余儀なくされた。
自粛解除された後も以前のような日常は戻らず、感染対策に尽力を欠き、必要以上にコンマ一度の熱に過敏になり、三十分おきにチェックリストに体調を記入する。
一体、私の仕事は何であったか。
イカれている。
誰もこのイカれ様を疑問に思わないのか。
私が変なのか。
この事態では最早、感染したら犯罪者だ。
そんな中、私は数回にわたり原因不明の発熱に見舞われた。
決まって昼食後の検温時。
当然、ナーバス度マックスの上司からは即時帰宅を命じられる。
オマケもたっぷり付いてくる。
医師、又は医療機関の詳細な診断。
これがまた厄介なことに、この時期ホイホイと受診に行くことさえタブーで、先ず電話で直接行ってもいいかお伺いを立てる。
熱が伴うと流行(はやり)中の疫病も懸念される為、今度は専門の相談センターにコンタクトをとるように促される。
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