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「私、自己紹介まだしてなかったね。
ええっと、私は水谷昭子。
四十九歳。牡羊座のA型。独身で職業は…なりたての無職。
特技も趣味も特に無いけど、食べるのが好き。付随して作るのも好き。」
「わぁ、お料理得意なのね。今度、教えて。何が得意?」
「んー、得意という程ではないけど、食べたいから作る感じかな。和食とイタリアンが割と多い。でも、一番好きなのは、お菓子作りとパンを焼くのかな。」
「ええっ。パンが焼けるの。凄くなぁい。断然尊敬しちゃう。絶対、今度教えて。」
「パン作り興味あるんだ。うん、分かった。
いつか一緒に作ろうよ。」
「ヤッタァ。約束ね。他にはどんな事するのが好き?」
「そうだなぁ…、あと散歩しながらボンヤリと空を見るのも好き。昼間の空もいいけど、月夜だとフラフラっと出歩いちゃう。ついでに、コンビニスイーツも必ず買う。止めようと思うんだけど、ついつい買っちゃうなぁ。」
「あ、分かるぅ。コンビニに寄り道しちゃう気持ちは私も同感。あれは、コンビニがあるからいけないのよね。で、それから、それから。」
先を促されて、いつも以上に饒舌になって続けた。
「動物も好き。特に猫好き。アパート暮らしで飼えないから、スマホで動画を見て癒されてる。あとは、猫カフェ行ったり、猫神社参拝したり。…このくらいかな…って、結構喋ったね。以上、です。」
「へぇ。猫神社ってあるんだ。それって、全国にあるの。」
「うん。神社だけじゃなくて、猫寺とかも沢山有るよ。日本も昔から、各地で猫との深いご縁や逸話、伝記が沢山有るみたい。
その御魂をお祀りしたりご供養した形として、今至る所に残っているんじゃない?かと思ってるんだけど。その場所に行くと、詳しい話しが聞けるから結構楽しいよ。」
「ふふ。本物の猫好きさんらしい発言。私も何だか唆られてきたわ。因みに、どこをお参りしたのかしら。」
「私が参拝したのは、鹿児島の仙巌園って所の中にある猫神神社と世田谷の豪徳寺のまだ二ヶ所だけ。
仙巌園は、薩摩藩主島津氏の別邸跡で、その中に猫神神社があるの。」
「何故、藩主のお家の敷地内に猫神社があるのっ。」
逸話を知らなければご尤もな話しだ。
「確か、島津家第十七代藩主が朝鮮出兵を命じられた時に猫を七匹、時計代わりとして同行させたのがきっかけなんだって。
ほら、猫の目って、昼間と夜で瞳の大きらが変わるでしょ。で、時計の代わりに。
きっと、昔の船旅は時間の流れも麻痺しちゃうくらい過酷だったんだろうね。
でも、色んな意味で癒されてたと思うな。
…猫さま尊いよ。
で、帰還した際に、猫に敬意を払って敷地内にお祀りしたんだって。その時、無事に帰ってきたのはたった二匹だったんだってさ。」
「…そうなんだ。猫ちゃんにも歴史ありね。深いわ。」
「矢野森さんは動物とか好き?」
「矢野森さんは止めて。しょーこって呼んでちょうだい。私もアキちゃんって呼ばせてもらうわ。」
「はぁ。じゃぁ、…しょうこ…さん」
「ううん。しょーこ、でいいの。アキちゃんのがお姉さんなんだから。」
「う、うん。分かった。」
中々の押しの強さである。大狐は続けて
「私は犬派。お家でコーギー犬を飼ってたわ。彼女の名前はキャンディ。
私が生まれる前から家に居てね、私が生まれてからは、自分の子供みたいに大事にしてくれてたんだって。
私、ひとりっ子だったから、いっつも一緒に戯れてた。それからもずっと仲良しで…だから、死んじゃった時は、長いことしんどかったなぁ。彼女に代わる子は居ないから、…あれ以来自分では飼えないの。
今でも、たまに夢を見るわ…。」
大狐の目が潤み、両頬に筋を作った…真っ黒な。
感動する場面だ。
だが、どんどん顔面全体が弛緩して崩壊していく。
緩んだ顔面は、パンダ顔を通過して髑髏と化している。
私は慌てて、テーブルの上のティッシュを箱ごと渡した。
大狐は、ティッシュを受け取ると目頭を押さえ拭い、鼻もかんで漸く人心地ついた。
うるっとはしたが、些か残念な感じで愛犬エピソードが終わったが、大狐の自己紹介は続く。
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