最終話 その花の名前は

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最終話 その花の名前は

 二年後。俊介は相変わらず藤宮聖社長の秘書として忙しい日々を送っていた。  春の陽気溢れ桜咲く温かい季節だが、サラリーマンの俊介にとっては忙しさが倍増する季節でもある。  春といえば若い芽が育つ季節だ。この春、藤宮コーポレーションにも新入社員が十数名入社した。  俊介は今まで通り変わらず仕事をするはずだったのだが────ここ数ヶ月で俊介の業務が増えたこともあり、秘書をもう一人採用してはどうかと聖に提案された。  俊介としてはどちらでもよかった。ただ、自分に何かあった時に後任がいないのは困るので、聖の提案を呑むことにした。 「うーん、思った以上に応募が多いわね……」  デスクに着いた聖は頭を抱えていた。というのも、社内で秘書の募集を出したところ、思っていた以上に応募者がいて選考に難儀しているからだ。  秘書の募集は一名のみだ。大激戦になることは元々目に見えていたが、異動願を出すものが多く、各部署も混乱している有様だった。 「俊介、誰かいい子いない?」 「面接するにもこれじゃかなり時間とられるからな……とりあえず書類選考である程度落として、それから面接したらいいんじゃないか」 「まさかこんなに多いとは思わなかったわ。みんな今の部署に不満があるのかしら」  聖はガックリと項垂れた。 「違うだろ。こいつがいるからだ」  本堂は呆れたように溜息をついた。 「なんだ、俺のせいか?」 「応募してんの女ばっかじゃねーか。どう見たってお前目当てだろ」 「まぁまぁ二人とも。とにかく、応募者には書類選考するって連絡するわ。それからまた考えればいいじゃない。決定までまだ時間があるんだし」 「ま、そうか……」 「じゃあ、俊介、目ぼしい子がいたら教えて。よろしくね!」  聖からどん! と応募者の書類一式を渡された俊介は苦笑いを浮かべた。  今更秘書を募集するのもどうかと思ったが、よくよく考えてみれば前社長の時秘書は三人ほどいた。それを思えば、聖が俊介しかつけていないのは奇妙だ。  聖も、身内ばかり近くに置いておくのはいい風評を招かないと思ったのだろう。だからこのタイミングで募集しようと思ったに違いない。  俊介は秘書室に戻って応募者の資料をペラペラとめくった。秘書に応募するだけあって、皆さすがの経歴の持ち主だ。  だが残念ながら、この会社では学歴などなんの役にも立たない。聖は徹底的に実力を優先している。それか、伸び代があると思えば採用する。  だから今回の選考では、ある程度の基本的な能力さえあればあとは自分との相性で決めてもいいということだ。それで聖もこの資料を自分に渡したのだろう。  秘書は男でも女でもどちらでもいいが、現時点男の自分しかいないことを考えると女性を採用する方がいいように思える。だが、女性一人となると本人が色々苦労することになるだろう。それなら男を選んだが方がいいようにも思う。  悩ましいところだが、まだ時間はある。ゆっくりと決めていけばいいだろう。
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