第13話 君の心が変わるのならば

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 次の木曜、俊介は久しぶりに綾芽をランチに誘った。  綾芽に事情を聞いたからなるべく彼女の負担にならないようにと弁当は自分で作ろうと思ったのだが、それだと綾芽が申し訳なく思うのでなるべく安価に見える弁当にすることにした。  その辺りの食事に詳しい聖に尋ねると、三色弁当なんてどう? と勧められたのでそれにした。作ったことがないものは勇気がいるが、思いの外綾芽は喜んでくれた。 「三色弁当なんて普通すぎないか?」 「青葉さん、それって私の塩おにぎりにケチつけてるんですか? おにぎりは三色弁当よりシンプルなんですよ」  綾芽はムッと睨む。俊介はしまった、と焦った。綾芽はすぐに笑ってくれたが、迂闊に藤宮家で培った知識を披露しすぎるとまた綾芽との間に溝が開いてしまう。 「でも、青葉さんは本当に料理がお上手なんですね。羨ましいです」 「立花さんは料理は得意じゃないのか?」 「作ったことがないので……普段はその、食費が掛からないように安いもので作っていますから、レパートリーが少ないんです」 「そうかな。俺は逆に普通の食卓に並ぶようなものが作れないから立花さんの料理は参考になるよ」 「あ……そういえば聖さんのお家で執事をしていたんでしたね。執事って、あの執事ですよね……?」  執事なんて見ることがないから綾芽が不思議がるのも当然だ。藤宮家は明治から続く大企業だったため執事がいて当然だったが、綾芽には身近に思えないかもしれない。 「俺は執事に見えないか?」 「いえ……執事も、よくお似合いだと思います」 「やってることは今とあまり変わらないよ。聖のプライベートなことだけはやらなくなったが……サポートするって点では同じだな」 「だから青葉さんはそんなに真面目なんですね」 「ものはいいようだ。今までずっと仕事人間だったから、俺の方が疎いことだらけかもしれない。なにせ、藤宮家は普通とは違うんだ」 「聖さんに怒られますよ」 「あいつは自覚してるから大丈夫だ」  綾芽はおかしいのかクスクス笑った。  ────そうだ。人のことを笑っている場合ではない。  俊介は次の目的を思い出した。綾芽を誘わなければならないのだ。  現状、綾芽とは仕事場かこの公園でしか会えない。だが、それではいつまで経っても次に進めないだろう。  しかし、綾芽をデートに誘うとなると彼女に仕事を休ませなければならなくなる。それだと結局彼女の負担をかけてしまう。だが、自分が費用云々のことを負担すると言うと綾芽はデートを断ってしまうだろう。他になにか良い手はないものだろうか。 「青葉さん?」 「え?」 「どうかしたんですか?」 「あ、いや────ちょっと、仕事のことでな」 「なにかあったんですか? 話せることだったら言ってください。聞くだけしか出来ないかもしれませんが……」  ────そうだ。  俊介はふと思いついた。  綾芽に仕事を休ませるのがダメなら仕事を振ればいいのだ。いや、それだと職権濫用になってしまう。しかも聖の許可を得られるかもわからない。前回一度叱られている。  頭でいくつか候補を考えた。問題なさそうなものがあれば聖に相談すればなんとかいけるかもしれない。 「青葉さん……?」 「あ、いや……もしかしたら、立花さんに手伝ってもらうことになるかもしれない」 「私にですか? どんなことですか?」 「いや、まだ決定していないから……もしお願いすることがあれば、ある程度前もって知らせる」 「分かりました。出来ることなら頑張ります」 ────さて、あとはこれをうちのボスに相談しないとな。  俊介は真剣な顔をしている綾芽を見て少し申し訳なく思った。彼女は自分を助けようとこうやって言ってくれているのに、自分ときたら綾芽と過ごすことばかり考えていてとんでもないダメ人間だ。  これでは綾芽にためにやっているのか自分のためにやっているのかわからない。  だが、最終的にウィンウィンになればいいのだ。考えても仕方ないので割り切ることにした。綾芽に夢中になっているのは今に始まったことではない。
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