第14話 ≠恋人

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 木曜になると青葉は普通に公園に現れた。以前のような変わったところは特にない。いつもの穏やかな青葉だ。  青葉特製の弁当に舌鼓を打ちながら、綾芽はふと先日のことを思い出した。思い切って聞いてみたら、答えてくれるだろうか。 「青葉さん、この間は……何かあったんですか?」 「え?」 「あの、ロビーで話しかけて来た時のことです」  青葉は少しの間思い出すように、口を開いた。だが、なかなか言葉を発しない。その顔はなんだか気不味そうに見えた。 「いや……なんだか立花さんの様子がおかしく見えたから、何かあったのかと思ったんだ」  ────おかしいのだとしたらそれは青葉さんのせいですよ。  綾芽は一瞬その言葉が頭に浮かんだが、声には出さなかった。彼女でもない人間がヤキモチなんか妬いて、あつかましいと思われるのが嫌だった。  あの受付嬢の女性とは一体どんな関係なのだろうか。それこそ恋人同士だったら、自分のやって来たことは全て無駄になる。こうして一緒にランチを取ることも、気持ち的に拒否してしまう。  自分より優れた人間などいくらでもいるのだ。自信など簡単に崩れてしまう。 「立花さんと一緒にいた男の子、あの子もバイトの子なのか?」 「え? ああ、萩原くんですか? そうです。大学生のバイトさんです」 「……そうか。いや、よく見かけるなと思ったんだ」 「萩原君は学生なので朝番で入ることが多いです。お喋りがたまにキズですけど、面白い子ですよ」  青葉はそうか、と短く返事して笑みを浮かべた。  綾芽はなんとなく居心地が悪かった。いつもなら色々尋ねてくるのに、今日はやけに静かだ。  やはり何かあったのだろうか。仕事がうまくいかなかったのかもしれない。もしくは────好きな女性ができたのか。  この逢瀬は一体何度目だろう。なんとなく続いているが、絶対の予定ではない。何かの拍子にふとしたことでなくなってしまうのだ。それこそ、青葉に好きな女性ができてしまったら。  青葉が喋らないことがその想像を断定しているように思えて、途端に不安になった。 「────ごめんなさい。今日は、少し早めに戻ります」 「……え?」 「ちょっとやらないといけないことがあるので。すみません……」  青葉はそうか────と、少し残念そうに答えた。いや、そう聞こえるだけで、興味がないだけだろうか。もしくは、青葉も早く帰りたいと思っていたのか。  綾芽は荷物をまとめ、足早に公園を後にした。  自分から帰ると言った癖に引き止めて欲しいなんて矛盾したことを考えていた。  会社に向かう足はふっと止まって、振り返りたくなる。けれどそうすると自分が負けたような気になって余計に意地を張らせた。
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