101人が本棚に入れています
本棚に追加
「そう言えば……、このあいだ、どうして元気なかったの?」
立ち入ったことだと思って前は訊けなかったけど、あんまり悲しそうだったからついそう尋ねてしまった。フユト君は苦笑いを浮かべて、それからまた視線を落とす。
「少し前に、振られたんだよね。……この曲、彼女が好きそうだなとか、思っちゃって」
えっ、と声にならない声を発したまま、固まってしまった。フユト君を心配するより先に、傷付いた自分の心が悲鳴をあげる。フユト君の口から出た『彼女』という言葉は、どこか親密で、もしかしたら付き合っていたのかもしれないと感じた。
大丈夫。振られたんならまだ、私にもチャンスはある。
咄嗟にそうやって自分自身を庇ったことに、自己嫌悪が込み上げてきた。でも、初めて強くなりたいと思わせてくれたこの恋を、諦めたくない。
ゼリー1個分でいい。ほんの少しだけ、この恋が叶うかもしれないと願って、頑張らせて。
スマホを強く握りしめて、唇を開く。
「フユト君の連絡先、教えてくれない?」
フユト君がゆっくりと顔を上げた。夕暮れを背負った彼の瞳は、どこまでも優しい。初めて目を合わせたときから惹かれていた、柔らかい色。その色には、でも大きな影が落ちている。
最初のコメントを投稿しよう!