セツナラセン ~ 黄昏色のゼリー ~

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   フユト君は発作で倒れた私を、この病院まで運んでくれた恩人だ。  幼い頃から心臓が弱くて、激しい運動は控えるようにと主治医に強く言われているのに、あの日は歩道橋を駆け下りている途中で足を滑らせ、発作を引き起こしてしまった。  倒れたときのことは、あまり記憶にない。初めて彼と目が合ったのは、この病室で目を覚ましたときだった。彼は私のことを、ひどく不安そうに見下ろしていた。  背が高くて、目付きが悪くて、色の抜けた髪はライオンのたてがみのようで、あちこちに跳ねていた。  普段の私だったらすぐに“怖い人”と決めつけて避けるだろうな、という見た目だったけど、ちっとも怖くなかったのはきっと、フユト君の瞳の色が優しかったから。 「アキ、フユト君が好きなんだね」  ナツにそう言われて、すぐに顔が火照った。  フユト君に出会ってから、ずっと彼のことを考えている。  色々悪い方に考えて、なかなか行動に移せない私と違って、迷わず私に手を差し伸べてくれた彼が眩しかった。最初は尊敬だったんだと思う。でも彼と会うたびに尊敬が色づき始め、気が付いたらもう、ナツにもすぐにバレてしまう程に大きな恋心を抱えていた。  ナツに向かってちいさく頷く。私のことをなんでも知っている幼馴染は、きっと呆れているに違いない。出会って間もない人なのに、急速に想いを膨らませてしまったことに。
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