セツナラセン ~ 黄昏色のゼリー ~

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 斜めに傾いていたオレンジ色のそれをひとつ、手に取った。ひんやりと冷たくて気持ちがいい。  窓の外から入ってくる日差しは、まだまだ夏の熱をたっぷりと含んでいる。でも夕方になると、頬を撫でる風は途端に涼しさを覗かせる。  まもなく10月。フユト君も私も高校三年生で、もうすぐ受験だ。私が退院する頃には夏が終わる。そしたら多分、彼には会えなくなる。  今のままじゃだめだ。  どうしたらいいのか、この恋を前に進める方法が私には分からない。だって今まで、マトモな恋をしてこなかった。胸にある手術痕は、私を臆病にするには充分すぎるほどに、色濃く残っている。  でも、彼に会えたこの季節は、もう二度と巡ってはこないのだから。  もう少しだけ、あとこのゼリー1個分くらいの自信が持てるまで、夏のままで待っていて。ゼリーを頬にあてたまま、秋の気配に見つからないように、そっとカーテンの裏に隠れた。 ♬♩♬  ――この間の曲、フユトってやつにあげてもいいよ。ていうか、色んな人に広めてくれって言われたよ。  ナツからそう連絡が来たのは、まさにフユト君が病室に入ってきた直後で、私は思わずスマホの向こうにいるナツの手を取って飛び上がりたい気分になった。
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