セツナラセン ~ 黄昏色のゼリー ~

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 フユト君とは、病院の中庭で話すのが定番になっている。病室まで迎えに来てくれて、そのあと二人で中庭へと降りる。授業が終わってすぐに会いに来てくれるから、彼が背負っている空はいつも、夕陽に染まる少し手前だ。  病院の中庭は緑で溢れていて、ちいさい頃からのお気に入りの場所だ。フユト君は、出入口すぐのところにあるベンチに座った。自分の足で、彼のすぐ傍まで歩いていく。 「車椅子、もう使わなくて本当に大丈夫なの?」  この間お見舞いに来てくれたときは、まだ車椅子を使っていた。無理さえしなければ、日常生活に支障はない。それを伝えると、フユト君は安堵で顔を綻ばせてくれた。  彼の笑顔に、私の胸が愛しいと軋む。 「あの、フユト君」  面会時間が終わるまで、もうそんなに時間はない。早速あの曲を聴かせてあげなきゃ。手に握っていたスマホの画面を指で撫でながら、そっと彼の方に身体を寄せた。 「これ、すごく素敵な曲なの。聴いてみて。この間会ったとき、元気なかったでしょ? フユト君、音楽好きだって言ってたから、持ってきたの」  何度も練習した言葉を、一気に喋り切った。これを聴き終えた後の台詞も、実は決めている。  ――この曲送ってあげるから、フユト君の連絡先教えてくれない?
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