セツナラセン ~ 黄昏色のゼリー ~

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 考え抜いたそのフレーズを、頭の中でもういちど繰り返した。連絡先さえ交換できれば、夏が終わっても彼の隣にいられるはずだ。とりあえずは、友達として。 「ありがとう。どんな曲だろ。楽しみ」  フユト君はそう言いながら、私の手のひらに乗っていたイヤホンをつまみ上げた。彼がそれを耳に入れるのを確認してから、スマホの画面を人差し指で弾く。  音楽が流れ始めてすぐに、フユト君はゆっくりと目を伏せた。私も一緒に目蓋を閉じる。二人でひとつのイヤホンを使っているから、お互いの肩が触れ合う。並んでリズムに身を委ねていると、まるで二人で波に乗って揺られているみたいだ。  この夏は無理だけど、来年はフユト君と海に行きたい。理想を言えば、フユト君の彼女として。  耳の奥で、音符が踊っている。深い色の海の上を、水飛沫を上げながら。  曲が終盤に差し掛かる。この後、さりげなく連絡先を聞くんだ。段々緊張してきて、手のひらに汗が滲んだ。頑張れ、私。口の中でそう唱えてから、フユト君の方に視線を向ける。  その横顔に釘付けになった。フユト君はとても寂しそうな目で、どこか遠くを、見えない何かを見つめていた。
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