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幼馴染のナツが、私の耳にそっとイヤホンを嵌めた。
目を閉じるとすぐに、たくさんの音が耳の中で跳ねる。この曲を持ってきてくれたナツが隣に居ることも忘れて、狭い病室の中、ひたすら音楽に身をゆだねた。海の上で音符が踊っているような、深さと軽やかさが混じり合った、とても印象的な曲。
音が凪いでから、海に浸していた身体をゆっくりと起こした。視線を、ほとんど無意識に中庭に寄せる。先程まで中庭にいた彼の影が浮かんだ。どこか元気がなくて、でも何の力にもなってあげられないと、悔しく思いながら病室に戻ってきたけれど。
この曲だ。この曲がきっと、音楽の好きな彼を元気付けてくれる。
そう思うとなんだか嬉しくなって、私のすぐ隣に座っていたナツに向かって声を弾ませた。
「ねえ、これ、聴かせたい人がいるんだけど、良いかなあ」
聴かせたい人とはもちろん、彼、フユト君のことだった。唐突にそんな風に言ったから、ナツは珍しく、眉根を寄せて私のことを訝しんでいる。私はナツに、フユト君のことを打ち明けた。
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