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「あの……、この曲、その彼女にあげてみたらどうかなって。何かきっかけになるかも」
今にも泣きそうだったのに、私はなぜか笑っている。
うまく笑えているかな。なんでこんな事言っちゃうんだろう。心の中がぐちゃぐちゃで、自分のことなのによく分からない。
目の前にいるフユト君は、曖昧な表情のまま、でも制服のポケットからスマホを取り出してくれた。
♬♩♬
病室に入ってすぐ、ベッドの脇まで歩いて行って、冷蔵庫を開けた。夏の海辺みたいにカラフルなゼリーたちが、私のことを見上げてくる。勿体なくて食べられなかったそれをひとつ、雑に拾い上げた。
「フユト君、すき」
ゼリーに向かって、言葉を吹き掛ける。
これは恋だけれど、返事のない恋。
唇をつよく結んで、ゼリーの蓋を開けた。
スプーンはどこだっけ。頭の中でそう呟きながら、サイドテーブルに投げ出してあったコンビニの袋に手を入れた。
「あっ」
そう声を上げた時にはもう遅くて、オレンジ色のゼリーは私の指先から離れ、病室の冷たい床に落ちてしまっていた。ぐちゃぐちゃと、だらしなく飛び散ったゼリーに、ただ視線を落とす。
連絡先が手に入ったって、いくら頑張ったって、彼は私のことなんか好きにならないのに。
散らかったオレンジ色が、雨上がりの夕暮れみたいに、ぼんやりと滲む。立ち尽くす私の頬を、秋の顔をした風が撫でていった。
ー
to be continued……
『リレーバトン、フユトへ✎*。』
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