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俺がやって来たのはお墓だった。
母が眠っている場所。
教員になってからはここには来ていなかった。
忙しかったのもあるが、俺は単純に母が死んだことを否定したかったのかもしれない。
ここに来る度に、母が死んだことを嫌でも実感させられる。
それが嫌だったのかもしれない。
翼「久しぶり、母さん」
お墓に供えられた花はすっかり枯れていた。
俺は立ち寄った花屋で買った花を花瓶に挿す。
そして静かに手を合わせた。
父は1度も墓参りには来ていないようだった。
母が死んだ日から父は変わった。
笑わなくなったし、怒りもしなくなった。
ただ、時折悲しい表情を見せるだけ。
俺はそんな父に段々と嫌気が差すようになった。
成人になると同時に俺は家を出た。
それ以来、父とは連絡すら取っていない。
今どうしているかも分からない。
父のあの悲しそうな表情は何だったのか。
母を失ったショックからなのか、それとも母が自殺した理由を何か知っているからなのか、母が自殺した理由が父にあるからなのか。
それすら分からなかった。
翼「……」
俺は決心していた。
『赤マント』と戦う覚悟を。
そのための区切りとしてここにやって来た。
しかし、俺の心はスッキリすることはなかった。
寧ろ少し寂しくなった。
翼「来るのを間違えたかな……」
俺は帰ることにした。
俺は足を止め、振り返った。
母の墓を見つめる。
耳を澄ませても、母の声が聞こえることはなかった。
翼「……」
俺は何も言わずその場を後にした。
翼「(美味しいうどんでも食べて帰ろう……)」
俺は寂しさを誤魔化すようにそんなことを考えていた。
<翼side end>
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