一路(いちろ)の場合

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一路(いちろ)の場合

 出掛けに兄貴に借りたサンダルの底が薄くて、少し後悔した。  日中の茹だるような暑さのせいで、アスファルトは相当熱を貯め込んでいたらしい。  無防備な足の裏から、瞬く間に体温が上昇していく。  僕はほんの一分前に確認したばかりのスマホを、再び取り出した。 『今家でたところ』  相変わらず、スタンプの一つもない。  なんなら、句読点もない。  だけどその十文字足らずの無愛想なメッセージが、僕の体温上昇に拍車をかける。  今からこんなに緊張していてどうする。  これからが……本番だっていうのに。  ごみ捨て場の古びた掲示板には、どこかの小学生が描いたらしい御輿の絵のポスター。  “剱崎(けんざき)神社まつり 八月二十七日(日)小雨決行”  僕は今日、この祭りで、あいつに想いを告げる。
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