一路(いちろ)の場合

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 参道の両脇には、露店がいくつも並ぶ。  夏休み最後の日曜ということもあり、境内はそこそこ賑わっていた。 「ちぃ、なにか食べる?」 「う~んそうだなぁ……とりあえずラムネ!」 「ビールみたいなノリで言うなよ」 「こうさ、クーッといきたいじゃん。あ、たこ焼き食べよ」 「ちょ……はぐれるから勝手に突っ走らないでよ」 「ラムネと唐揚げは任せたーっ!」  ちぃとの会話は、いつも三割は噛み合わない。  五年前、中学で出会った時からそれがデフォルトだ。  だから多少話をスルーされても、今更気にもならない。  たこ焼き屋のおじさんに指二本立てる後ろ姿を眺めて、僕は思わず吹き出した。 「ほんっと、痩せの大食い」  天真爛漫で、人懐こくて、自由で。  僕にないものばかりを持つちぃに対して、特別な感情を抱くようになるのに時間はかからなかった。  息をするのと同じくらい、ごく自然なことだった。  いつも一緒につるんで、喜怒哀楽を共にして、お互いの良いところも悪いところも知ってる。  それなりに濃い関係を築いてきたとは思う。  ――“友人の一人”としては。  だけど僕は、友人(それ)じゃあもう、足りなくなってしまったのだ。  右手の中で、二本のラムネ瓶がぶつかり合ってカチリと軽い音を立てた。  さっき買ったばかりなのに、表面にはもう細かい水滴が無数に浮かんでいる。  それは、ただでさえ汗ばんでいた僕の手のひらを、さらにじっとりと濡らした。    僕の、ちぃへの気持ちは。  このラムネ瓶の中の、ビー玉と同じだ。  喉のすぐそこまで出かかっていても、容易く口にはできない。  ずっと……できないでいた。  打ち明けるということは、粉々に砕け散るかもしれないということ。  そしたらもう、元には戻れないから。
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