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嗚呼、あの男を殺してやりたい。
二人の後を追おうか迷ったが、人の目が多いので止めた。それに、店内には防犯カメラがある。変に騒ぎを起こせば、刑務所行きなんてことになりかねない。
「出せ」
「え? 良いんですか?」
橋田が驚いて振り向いたが、俺は彼を見ずに、
「いいから出せ」
ははは、と橋田は舌を縺れさせて、
「はい」
橋田の返事の後、車はゆっくりと動き始めた。
移りゆく景色、変わりゆく町中。住み慣れた町も人も、あっという間に通りすぎていく。
「……どこへ行けばいいんですか?」
「聞かないと分からないのか?」
橋田が恐る恐る聞いてきたが、俺は彼を睨む。
いいい、と橋田は言って、
「いいえ」
と返事をした彼は、どこか怯えているようだった。いや、俺に何かされないか不安なのだろう。
俺はそれを嘲笑うかのように鼻を鳴らし、再び窓の外を眺める。
リバーウォークの前は、若い男女が多く歩いている。綺麗な女がちらほらいたが、全く気にならなかった。
優里以外は石ころと変わらない。むしろ、全世界の人間が石ころになれば良いと切に願う。
指示もしていないのに、車は事務所へ戻った。もともと、帰るつもりだったが、畠中の兄さんの所へ行っても良いなどと思っていた所だ。
見馴れた二階建ての白い建物は一階が駐車スペースになっており、二階が事務所だ。
玄関扉の横に掲げられた木の看板には、『藤代組』と黒い字で書かれている。
「お疲れ様です!」
車が駐車スペースに止まるや否や、坊主頭の男が後部座席の扉を開けた。名前は知らないが、まだ組に入ったばかりの若手だ。
「馬鹿! お前が開けるんじゃねえ!」
その瞬間、橋田が怒鳴る。
誰が開けても一緒なのだが、橋田は森下に「お前が開けろ」と指示。
「すみません!」
と、大きな声で坊主頭の男が謝った瞬間、森下が車から降りた。
退けと言わんばかりに、森下は坊主頭の男を押し退け、後部座席の扉を閉めた。そして、また扉を開け、「どうぞ」と促す。
まるで女の争いのようで、見ていて気分が悪い。何か言おうかと思ったが、面倒なので止めた。
車を降りると、辺りは蒸し暑かった。ジメジメとした空気が堪らなく不快で、スーツの上着を脱ぎたい気分になる。
「お疲れ様です」
玄関前まで行くと、大柄の男が頭を下げた。毎日のように会っていると言うのに、俺はそいつの名前を知らない。
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