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優里の大きな声が部屋の中で響いている。俺が怖くないのか、彼女は脅えた素振りさえ見せない。
何があっても普通に接してくれる優里の優しさに俺は惚れた。どうやったら自分に振り向くのか、毎日その事ばかり考えている。
シャワーを浴びてホテルから出ると、辺りは暗くなっていた。きらびやかなネオンが照らす中、先を歩く彼女は振り向こうとすらしない。
なぜ俺の隣を歩かないのか不思議だった。俺が近付くと、優里は俺から距離を取る。
キャバクラの前に差し掛かった頃、一人の男が優里に話しかけた。どうやら、キャバクラのスカウトらしく、彼女に名刺を渡している。
男と楽しそうに話している優里を見ていると、モヤモヤとした感情が芽生え、頭に血が上る。
俺には見せないその笑顔に嫉妬し、殺してやりたい衝動に駆り立てられた。
スーツの懐から拳銃を取り出し、男に向かって構える。すると、周りから悲鳴が上がり、男と優里がこちらを見た。
あああ、と男は舌を縺れさせて、
「浅井さん」
「俺の女に何かようか?」
「女? 浅井さんの女だとは知ら──」
男の話を遮るように、「やめて」と優里が叫んだ。それを合図に、俺は引き金を引いた。
銃声が辺りに轟く。キーンと耳鳴りがした後、額に被弾した男は後ろへ倒れていった。
「きゃあああああああ」
優里の悲鳴が辺りに響き渡る。血の海の上で横たわっている男を見た通行人は、ザワザワと煩く耳障りだ。
「優里、行くぞ」
俺は何事もなかったかのように、優里の手を引いて歩き始めた。
そして、スマホで部下に電話を掛ける。
「小倉駅の正面に車を回せ」
「分かりました」
部下の返事が聞こえてすぐに電話を切った。それから、俺は駅の方へと向かう。
ちょうど駅の傍まで来た頃、パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。ウーウーと唸っているそれは、次第に大きくなっていく。
「何であんなこと──」
「あいつがお前に色目を使っていた。だから、殺した。それじゃあ不満か?」
「…………」
優里は何も言わなかった。ただ、潤んだ目で俺を見ている。
信号が青に変わった。人混みの中、優里の手を引いて横断歩道を渡る。
振り向くと、優里は泣いていた。今日はよく泣くなと思いつつ、優里を守ったという優越感に浸る。
俺が守らなければ、優里は酷い目に遭わされていたかもしれない。あの男の嫌らしい目は、優里を女として見ていた。
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