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再び車が動き始めた。車は、優里がいるマンションから次第に離れていく。遠退いていくに連れ、優里に会いたいという気持ちが強くなる。先程まで一緒にいたのに、顔が見たくて仕方ない。
俺は懐からスマホを取り出し、優里に電話をかけた。しかし、プープーという断続的な音が聞こえるだけで、優里に繋がらない。
繋がらないと分かると腹の底から怒りが沸き上がり、その苛立ちを押さえるように煙草を吹かす。
なぜ電話に出ないのかラインで聞いてみたが、一向に既読が付かない。無視をするな、他の男と話しているのか、殺されたいのか、などとラインを送ったが、やはり既読が付かなかった。
「大丈夫ですか?」
森下が恐る恐る聞いてきた。ああ、と俺が唸り声を出すと、森下はサッと顔を逸らす。
野郎の声など聞きたくもない。聞きたいのは、優里の声だけだ。
また優里に電話をかける。すると、今度はいつもの呼び出し音が聞こえてきた。
「……何か用ですか?」
三コール目の後、優里の声が聞こえてきた。面倒臭そうな不機嫌そうなその声色は重々しい。まるで、嫌なものと話しているかのような声のトーンに苛立ちが募る。
「今、誰と話していた? 正直に答えろ」
「私が誰と話そうとあなたには関係ないでしょう?」
「……お前の家族がどうなってもいいんだな?」
優里の家族を出しにして脅すと、溜め息を吐いた音が受話口から聞こえてきた。そして、彼女は困ったように、
「専門学校の友人です」
「男か?」
「……はい」
と優里が答えた瞬間、俺は咥えていた煙草を噛んだ。それから、煙草の火を灰皿で揉み消し、すぐに口を開く。
「男と話すなと言ったはずだが?」
「なんで、あなたにそんなこと決められないといけないんですか?」
「お前は俺の女だ。お前に拒否権はない」
俺ははっきり言って、
「明日の朝迎えに行ってやるから家で待ってろ」
と話を続けた。そして、一方的に電話を切る。
また、優里に悪い虫が寄っているようだ。
俺は点々と明かりが灯る家々を眺めつつ、スマホを握りしめる。
まだ優里と話していたかった。しかし、兄弟分と会う約束をしていたため、これ以上話すことは出来ない。
何せ、四分六の盃を交わした兄さんは待たされることを嫌う人間。一秒でも遅れようものなら、何をされるか分かったものではない。
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