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第四章 ・・の筈だった
最近晴れ続きだから、村人達に休む暇はない。晴れのうちに色々とやっておかないといけない事が多いから。
雨になれば狩猟も木こりもできないし、雨になると湿気で物作りのコンディションが下がってしまう。
川が氾濫する恐れもあるから、釣りもできない。基本的に雨の日が、村人の休日。
雑貨屋は晴れでも雨でも営業できるから、基本年中無休。そこまで大変な仕事でもないし、むしろ何かやってないと気がおかしくなりそう。
来るお客さんは殆ど村民だから、そんなに気を使う必要もない。時々迷い込んだ旅人が訪れる時もあるけど、そんなの滅多にない。
このパニエッテンを訪れる人は、年に十数人のみ。用事があって来る人は多いけど、それ以外だと、大抵森に迷った人。
俺達村人は周辺の地形を熟知しているけど、初めてこの森に入る人にとっては、相当難儀な道のりになる。
森の中はいつも薄暗く、見渡す限り木々ばかり。このパニエッテンは、そんな森の中で、唯一日が差し込む場所にある。
でも村から一歩外に踏み出せば、そこはもう湿気と鬱蒼とした木々に囲まれた迷宮。でも村に住む子供達でも、簡単に森から抜け出せる。
目印にしてある木や地形をある程度覚えていれば、ちゃんと村には帰れる。上級者になると、木の実や釣り場のポイントすらも覚えている。
子供の中にも上級者はいる。その子が皆のリーダー的立ち位置になって、村に住む子供達をまとめあげている。
森の迷路を教え込むのは、大抵親。親の仕事を手伝いながら、幾度も森に入って覚えていく。
村に住む子供は、両親の仕事の手伝いをしながら、将来やりたい事を考える。親の後を継ぐのもいいし、別の仕事に転身するのもいいし。
この村での仕事は限られているけど、町や都市に行けば仕事の幅が増える。子供達は、最初にそのどちらかを選ぶのが、大人の大一歩。
大抵半々に分かれるけど、都市に行ってから戻って来る人だっている。その反対で、歳をとってから都市に行く人だっている。
まだ幼い頃、俺は都市に何度も憧れを抱いていたけど、父がそれを断固反対していた。
怒鳴り散らしながら反対していたわけでもないんだけど、俺が都市の魅力を語る度に、父が今までに見せた事のない、悲しげな表情を浮かべていた。
きっと、自分の元から去ってしまうのが、悲しかったんだと思う。だから俺は、ずっとその感情を封印していた。
せめて、父が亡くなってから、じっくり考えようと思っていた・・・んだけど、その時が急に来てしまった。
でも、俺自身この雑貨屋の経営が嫌というわけでもないし、店を手放すのも躊躇してしまう。
パニエッテンにとって、この雑貨屋は『最後の砦』。ある程度の物は揃えてあるから、急に必要になった時、此処に来れば確実に手に入る。
もし雑貨屋が無くなってしまえば、村民は危険な森の中を、半日かけて移動しなくちゃいけない。
品を求めるのは、モンスターにある程度対抗できる男だけとは限らない。女性だって子供だって、この雑貨屋を重宝してもらっている。
村の為にも、皆の為にも、俺はこの雑貨屋に誇りを感じている。都市から見ればお店『ごっこ』に見えるかもしれないけど、村には必要不可欠な場所だから。
「大きくなったら雑貨屋で働きたい!!」なんて言っていた子の為にも、これからも頑張らなくちゃいけない。店員を増やす予定はないんだけど。
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