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朝日が森の隙間から顔を覗かせる頃になると、もう殆どの村民が自分の仕事に没頭している。
店も流行りだす時間帯になり、店の前の広場で休憩する人達も現れ始めた。
子供達は、親の仕事の手伝いをしたり、そこら辺で遊んだり。いつもと変わらない風景だった。
雑貨屋前の広場は、単なる休憩所ではなく、物々交換の場所でもある。休憩中の狩人や木こりに、品を注文できるから。
この村にお金はそんなに流通していない。だから交換するのは、お金と品に限った事ではない。時には物同士の交換もある。
野菜とお肉だったり、お肉と日用品だったり。雑貨屋は基本お金で取引されるけど、おまけをちゃっかり追加する時もある。
例えば、まだ商品にするか迷っている、俺の手作り菓子を、買い物一品につき一つサービスして、感想を貰ったり。古くなった品を低価格で販売したり。
この前は、その日に売り切らなくちゃいけないお菓子の売れ残りを、近くにいた子供達に横流しした。
それでも喜んでくれたから、俺にとっても助かっている。ちなみに、俺の手作りお菓子は、父の墓にもよくお供えしている。
俺はお菓子作りが上手いけど、父は料理なら何でも作ってくれた。手のかかる料理から、旬の味を堪能できる料理まで。
その料理がもう食べられないのは悲しい事ではあるけど、いつかその味を再現するのが、俺の密かな目標でもある。
もしそうなったら、レストランでも営業しようかな・・・なんて考えもあるけど、集客とかを考えると、やっぱり割に合わない。
でも、俺のお菓子は子供達に大人気。だからレストランではなく、カフェでも人気になりそうな気はするけど、今はまだ考える程度の段階。
「ちょっとちょっとエルバ君!」
「・・・?
どうしたんですか?」
俺の店に駆け足で来たのは、近所に住むおばさん。何故か顔が青ざめているけど、風邪をひいている様子でもなさそう。
ただごとではない様子だったから、俺は慌てて店から出た。周りを見渡すと、他の村民も慌てている様子。
モンスターが押し寄せたわけでもなさそうだし、誰かが大きな怪我をしたわけでもなさそう。
でも、おばさんの話を聞いた俺は、周りと同じく動揺した。
「貴族の馬車が、村に向かっているらしいのよ!!」
「・・・は?」
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