第七章 ジュチル・S・ハイン

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話を聞いていた村長さんは、納得した様子。俺に、十数年前の事を話してくれた。 俺がこの村に来たのは、まだ歩けない程小さい赤ちゃんだった頃。赤ん坊だった俺を抱きかかえながら、父は村に迷い込んだそう。 村長さんは父をもてなすと、父は突然こう言った。 「この村に、住まわせてください」 と。 そのまま流れで父はこの村に住み、持ち前の器用さを生かし雑貨屋を始めた。 でも父は、いつまで経っても話してくれなかった。何処からやって来たのか、何故この村に住みたかったのか。 謎めいていた父だけど、人当たりも良く、雑貨屋は大人気になった為、誰も追求しようとは思わなかった。 この隠れ潜む村には、事情を抱えた人が引っ越して来る人も珍しくなく、父もその類だと思ったんだとか。 でも、まさかその事情というのがあまりにもぶっ飛びすぎた今回の件。ますます謎の深まる父。 『学者』なんて、簡単に都市へ住めるほど高い地位のある職業。王族や貴族からも重宝される、いわゆる『エリート』。 お金や空腹に悩まされない、豪華で煌びやかな職業の筈。今の俺の生活とは、比べ物にならない程。 その筈なのに、何故父は研究を途中で放り投げて、まるで逃げる様にこの村へ移り住んだのか。 実験が失敗した考えもあったけど、その考えはジュチルさんによってあっさり消えてしまう。 ジュチルさんの話によると、実験は最後の調整を残すだけだったんだとか。 なのに父は、実験していた品を持ち出し、実験道具も全て壊してしまったらしい。 プレッシャーに耐えられなくなった・・・のなら、村に移り住む必要なんてない。そもそも父は、俺をしっかり育ててくれた。 心身が疲弊している様子も一切見られなかったし、むしろ村での生活を、心から楽しんでいる様子だったのを覚えている。 「・・・お父さんの遺品とかは・・・?」 「それが・・・ないんですよ、殆ど  父さんは日記も書かないし、本も読まないし、あるのは使っていたベッドく  らいですかね」 父が亡くなった後、父の使っていたベッドはシーツも全て剥ぎ取った。今はもう木版を組み合わせた塊でしかない。 近々解体してしまおうかと考えていたけど、ジュチルさんの話を聞いて、そうも言っていられない事情ができた。 俺は一旦席を離れ、家に戻って父のベッド跡を調べてみる事に。父が俺に隠し事をしていたなんて、考えたくもないけど、やむを得ない。 でも、ベッド下にはもう埃一つ落ちていない。この前掃除しちゃったから。でもその時、特別変わった物は落ちていなかった。 そこで俺は、床に寝そべり、ベッドの下板の裏を調べる為に、自分の体を床に滑られた。 「ゴホッ、ゴホッ・・・  ・・・・・ん?」
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