第一章 父からの教え

1/2
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ

第一章 父からの教え

昔から、父が言っていた言葉がある 「お金があるからといって、必ずしも幸せになれるとは限らない」 幼い頃の俺には、理解できない言葉だった。お金さえあれば、好きな物を好きなだけ買えるし、行きたい場所だって何処へでも行ける。 今の暮らしに不自由を感じた事はあまりないけど、城下町の話を友達から聞く度に、俺は富裕層の暮らしに憧れを抱いていた。 この『パニエッテン』で裕福な家は、村長の家くらい。城下町で悠々自適に住んでいる貴族や王族とは、比べものにならない。 そもそもこのパニエッテンは、森の奥深くにある小さな村。旅人でさえ、この村には滅多に立ち寄らない。それほどつまらない場所だ。 時々住民の何人かが、城下町へ工芸品や木の実を売りに行く。他の友達はよく付き添いで行くんだけど、俺は城下町に連れて行かせてはもらえなかった。 その理由を尋ねても、「大人になったらちゃんと説明するよ」と言うだけで、理由も動機も分からない。 でもその代わり、父は忙しい時間の合間を縫って、よく俺と遊んでくれた。森の中には、遊び場所も遊び道具もいっぱいあったから。 木のツタを使って一緒にターザンをしたり、木に登っておやつの木の実や果実を取ったり、その撮ったおやつを村の人達に売って商売の練習をしたり。 そんな父の愛情と努力もあって、俺はこのパニエッテンでの暮らしを十二分に満喫していた。 森の中のあらゆる秘所を知り尽くし、遊び方や楽しみ方を熟知した。そのおかげか、村の子供達からは「お兄ちゃん」と呼ばれるように。 俺には兄弟も姉妹もいないから、村の子供達が全員兄弟姉妹の様な関係。 男の子達とは木登りやくるみ投げをしたり、女の子達とはおままごとのパパ役だったり。ちなみにくるみ投げは、この村独自の遊びらしい。 もっと物が流通している場所にはちゃんとしたボールが売られているんだけど、そんなおもちゃを手に入れる為には、半日くらい歩かないといけない。 くるみ投げのルールは簡単、でも奥が深い。クルミは強い衝撃を与えると中身が出てしまう。 互いに投げ合って、キャッチした時に中身が出た時は、その中身を食べられるという、おやつも交えた一石二鳥の遊び。 その代わり、強い力で互いに投げ合わないと殻が割れない。かなりコツのいる遊びだけど、この村に住んでいる人なら、一度は経験する定番の遊び。 もちろん、こんな田舎町に嫌気をさして、村を出て行く若者だっている。ただそれと同じく、この静かな村を好んで引っ越して来る人だっている。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!