第二章 父から受け継いだもの

2/3
前へ
/233ページ
次へ
父が亡くなったのは、1ヶ月程前。過労でもなければ、病でもない。 近所の屋根を修理している最中、足を滑らせて、そのまま落下した父は、身体中を強く地面に打ちつけてしまった。 こんな田舎に病院なんてない。医者に診てもらう為には、荷車に父を乗せ、危険が蔓延る森を抜けないといけない。 運悪く、その時は土砂降りの雨が降っていた。だから町に行きたくても、行けない状況。 突然の土砂降りに驚き、川で魚釣りをしていた俺が村へ戻ると、村長が息を切らせながら俺に事情を伝えてくれた。 幸い意識はまだあったんだけど、全身が痛々しい姿に成り果てていた。でも父は、それほど苦しんでいる様子を見せていなかった気がする。 むしろ、大粒の涙を流す俺に、父は優しい言葉をかけてくれた。 「お前はもう、この村で十分幸せに暮らしていける。どうかこれからも、お前  の未来に、静かな平穏ががある事を・・・」 その言葉を最後に、父は静かに息を引き取った。 この村での葬式は、村民全員が参列する。皆が父の為に涙を流し、俺に励ましの言葉をかけてくれた。 「しばらくおばさんの家で一緒に住む?」 と、提案していた近所のおばさん、 「雑貨屋さんなくなっちゃうの?」 と、悲しげな顔で俺を見ていた子供達。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加