第三章 いつもの日常

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朝早くから俺の店に来たのは、小さな女の子。眠そうな目を擦りながら、まだ睡魔と格闘していた。 俺は店の中からホウキを出して、代金を頂く。女の子はホウキを受け取ると、まるで魔女の様にほうきにまたがって、家まで帰る。 パニエッテンで暮らす村人達の仕事は、木こり・日用品作り・猟・川魚釣り・畑が主。 というか、そのどれにも属さない仕事をしている村民なんて、俺か村長くらい。 村の周りを覆っている木々は、とても頑丈で長持ちする。だからそれを削り出したり切り落としたりしながら、生活雑貨などを町で売っている。 もちろん俺の経営する雑貨屋でもそうゆう品は揃えているけど、パニエッテンで暮らす人なら、誰でも作れる。 木で作れる物は沢山ある、コップ・食器・ちょっとした道具など。 都市の方では銀や貴金属が主流らしいけど、木の方が低コストだから、誰でも気軽に購入できる。 それに、作る人によって形や大きさが違ったり、品に描かれてる絵も人によって様々。 俺は絵に自信はないけど、模様を掘るのは得意な方。名前を彫ったり、同じ模様をただひたすら掘り続けるのも好き。 貴金属で作られた日用品でも同じかもしれないけど、やっぱり誰でも作れる事が魅力的だと思う。 鉄を曲げたり、形を変える為には、高温に熱せられたかまどを使わないといけない。当然、怪我や事故の危険性も高まる。 火傷跡は治らない事が多いし、鉄の形を変えようとして、作り手の姿が変わってしまうなんて、笑い話にもならない。 実は俺も昔、火傷を経験した。熱々に熱せられた鍋に触れてしまい、右手の掌を鍋にくっつけてしまった。 その時の父の顔は、今でも忘れられない。幸い父が、火傷に効く薬を常備していたから、跡も残らず後遺症も残らなかった。 あの経験をしてしまってから、しばらく火を見るだけでも恐怖を感じるように。 今はもうそんな事はないんだけど、あの時の痛みは、本当に想像を絶する痛みだった。 確かに豪華な銀製の食器で料理を食べるのには憧れるけど、食器を作る方の手間を考えると、躊躇してしまう。 これがある意味、職業病なのか、単なるトラウマから生まれた自分の定義なのかは分からないけど。 ・・・まぁ、木製の工芸品を作る段階でも、怪我や事故のリスクが無いというわけでもない。 だから俺の雑貨屋では、傷薬も売られている。薬草は父からしっかり教わっているし、道具もある。
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