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第四話 これ以上ないサプライズ
質問です。
あなたの日常には「えっ、それ今必要!?」と思う場面がどれくらいありますか?
『ちょっと見て。ここ、どうかな?』
ウサギだかタヌキだかがドキドキしてるスタンプ付きで送られてきたLINEを見て固まる午後八時。もちろん送信者は市野さん。
リンクを開くと、きれいな海が見える部屋?海の幸たっぷりのご飯と海を眺められるお風呂、全室が離れの造りになったホテルの説明が書かれていた。
『素敵だと思う』
当たり障りのない返事をした。
今日の市野さんは確か、仕事関係の人達と食事に行っているはず。お酒が入ってテンションが高くなっているんだろう。
『だよね!すごくセンスがいいPRの子が来てて、教えてくれた』
『四棟しかなくて、全部の部屋が湾に張り出して、静かでゆっくりできるんだって』
ピロン♪
テキストに続いて写真。“すごくセンスがいいPRの子”と思われる女性と今日集まっている人たちがタイ料理を囲んでいる。
(見たことないPRさんだな)
当たり前。というか、この写真送ってくれなくていいと思う。
(タイ料理食べるんだ、意外)
市野さんのご飯の好みをたいして知らないことに気づく。まぁ、向こうも知らないだろうけど。
ピロン♪ピロン♪ピロン♪
『予約が取りにくいらしいんだけど、美雪ちゃんが知り合いだから融通してもらえる!』
『美雪ちゃんはPRの子ね!(写真の手前)』
『翠の誕生日に行こう!』
女性をちゃん付けするの、実は苦手だ。でもスルーしよう。たぶん結構お酒を飲んでいる。そういう時の市野さんは、こんな風に連続でLINEを送ってくるから。
『なんで誕生日なの?』
ピロン♪
『誕生日とか何かの記念日に利用する人が多いんだって!』
全部のコメントに!がついてる。携帯の向こうでめちゃくちゃ笑顔の市野さんが想像できた。でも、私はシラフだからテンション低めでごめんなさい。
『じゃあ、364日後に覚えてたらね』
私の誕生日は昨日だった。ラフ出しがやり直しになったチームメンバーのサポートで派手に残業をして終わったけれど、別にいい。この歳になると誕生日なんて全然うれしいものじゃない。
『ごめん。誕生日、昨日だったんだ』
長い沈黙の後に返信があった。私が昨日SNSに投稿したランチの画像を見たんだと思う。大御所のボスがチームメンバーを引き連れてお高いフレンチランチをごちそうしてくれたやつ。
『気にしないで』
市野さんの誕生日だって、出会った頃には過ぎていたから何もしていないし。
『普通、先に聞くだろって皆に説教されてます』
『最低です』
皆に言わなくていい……。
『全然平気だから』
一緒にウサギだかカワウソだかわからないスタンプを送った。普段スタンプなんて使わないけど、たくさん謝られるといたたまれなくなるからこうやって和らげる。それに市野さんはこういう時、必ず電話をかけてくることもわかっていた。
「本当にごめん」
「謝らなくていいって」
「今日会える?」
「仕事のおつきあいでしょ?私はいいから」
「でも、お祝いしたいし」
「昨日あまり寝てないから今日は早く寝る。お祝いなんていいよ」
「本当にごめん。絶対埋め合わせするから」
実際のところは……、今から市野さんの家に行くなんて無理だっただけ。今日は帰宅するなりお風呂に入り、会社の人がプレゼントしてくれた日本酒を開けてしまっていたのだ。しかも庶民の味の代表格、マロちゃんのソース焼きそばを肴に。酔ってはいなかったけど、今からまたメイクして髪の毛ブローして着替えて出かけるなんて、まったくする気になれなかった。
(二十代なら行ってたんだろうな)
おかげさまで、いい感じのほろ酔い状態でたっぷり睡眠を取ることができました。
■■■■■
市野さんが“埋め合わせ”を実行したのは、二週間後のことだった。
その間、私はまぁまぁ仕事が忙しい普通の会社員の毎日を過ごしていた。一方の市野さんは日本のいくつかの都市で同時に始まるプロジェクトの準備で、あちこちの街を行き来していたみたい。「信頼できるチームがいるから自分がいなくても大丈夫」と言う割には、いつもプロジェクトの中心で忙しい様子だった。
「土日月は全部空けておいて」
次の月曜は祝日だ。晴れていればテニスをしたいけど、今回は市野さんのリクエストに応えることにした。家でゆっくりして疲れを取りたいんだろう。
(とうとう料理したりして)
朝、羽田に到着する市野さんを迎えに行くことになっていた。週末分の着替えを車に積んでおいて、早朝テニスの後に向かう。帰りにスーパーで買い物をしないと。それとも、どこかでブランチしたいかな。
(ブランチだとこの格好はまずいか)
テニスをした後、シャワーを浴びて急いで来た。
だから今日は、白いTシャツに黒のサテンのジョガーパンツというカジュアル極まりない服装をしている。念のために薄手のレザージャケットを持って、髪は洗いざらしをお団子にまとめ、眉とマスカラを整えて、口にはほんのり赤い色がつくリップクリームを塗っただけ。女友達とのブランチならこれでOKだけど、市野さんが気を悪くしたら嫌だなぁ。家に行ったら、着替えて髪もちゃんとしよう。
空港に着いた後はコーヒーを買って、到着した人が出てくる自動ドアから少し離れた場所で待っていた。市野さんは顔が知られてるから、目立たない方がいい。
スーツ姿の出張客がポロポロ、家族や女性同士の旅行客がズラズラ、市野さんはすぐに見つかった。いつものTシャツにジーンズ姿で辺りをキョロキョロ。私を探してるんだと思うけど、この格好だと気づかない?携帯を見ながらタクシー乗り場に行こうとしていたから、駆け寄って腕を掴んだ。
「市野さん」
「……」
振り返るなり市野さんはフリーズした。わかってたけど、そんなにひどい?うんうん、だよね。市野さんはいつもキレイにしてる人が好き。
(アクセサリーひとつもつけてないし!)
市野さんの視線が、私の頭のてっぺんから足まで移動する。そういえばスニーカーを履いてるところすら見せたことなかったかも。
「珍しいね。そういうかっこ」
「テニスしてたら時間なくなっちゃって。ごめん、後で着替える」
なんとなく照れくさくて、自分で笑った。
「なんで?いいよ。俺だってこんなだし。それより翠。むちゃくちゃいい匂いがする」
「シャワーしてきたばかりだから」
市野さんは右腕で私を抱き寄せて、髪に顔をうずめた。
「人前だから行こう。車こっち」
「ははは。これくらいもダメなの?」
ダメなのは社会的地位がある市野さんの方。なのに彼は「じゃあ」と手をつないでニコニコしてる。
「ちょっと充電」
駐車場でトランクにスーツケースを積んでいる時にはキスされた。防犯カメラがあるだろうけど、映っていないことを祈る。でも、そんなことより今日の市野さんはキスがすごい。リップクリームを舐めとるような、唇ごと食べようとするような、激しくてしつこくて気持ちいい。それに、やたらと髪を触る。下ろした方がいいかなと思って(ボサボサだけど)ゴムを外そうとしたら、市野さんに腕を掴まれた。
「そのままでいい。すごくかわいい」
もっとしたいのはわかるけど、こんな場所ではダメ。両手を市野さんの頬に添えて動きを止めた。
「市野さんの家でいい?それとも何か食べていく?」
「ううん。今日は行くとこある」
「どこ?」
「熱海。前に話したホテル覚えてる?」
「あのオススメの?」
「そう。サプライズ旅行しよう」
えっ。
サプライズで旅行。
やめてー!!!!!!!
と、頭の中で叫んだ。
どうして男の人は温泉旅行が好きなんだろう?イチャイチャするのにピッタリなのはわかるけど、私は温泉宿のお風呂が好きじゃない。ジムなんかのお風呂も苦手で、今回のホテルが部屋にお風呂付きのタイプでなかったら断りたいくらい。
あと荷物。出張帰りの市野さんはいいけど、私は旅行の用意をしてきてない。それどころか、トランクにはテニスのバッグを突っ込んだまま。あんな素敵な所に泊まるなら、見合った持ち物を準備したかった。そんな女心を察するのは、そんなに難しいことなのかな。
あと、もうひとつ。最悪なことに、私は生理中だ。女友達との旅行であればお互い気にして日程を決めるけど、男の人にそんな気は回らない。サプライズは楽しいけど、事前に相談してほしい場合もあるんだよ!一番言いたいのはコレだった。
「ちょっと待って。私、旅行に行く準備してない」
「大丈夫。温泉入ってゆっくりしよう」
そうじゃなくて。
「私、生理なの」
「……」
「タイミング悪くてごめんね」
「いや、俺こそごめん」
市野さんはたぶん、この手の話題に疎い。こういう話になると中学生みたいに恥ずかしそうにするのだ。
「でもさ、行くだけ行ってゆっくりしよう。料理もおいしいらしいし。俺、運転代わるから」
「いい。私、助手席だと寝ちゃう」
「寝てていいよ」
「市野さんは忙しかったんでしょ?着いたら起こすから」
「さすがにそれはダメでしょ。翠の誕生日のお祝いなんだから」
と言いつつ、助手席に押し込んで車を出すと、市野さんはあっと言う間に寝落ちた。私は運転するのが好きだから、全然構わない。
困るのは、自分が市野さんのこういう突発的な行動に慣れてきてしまっていることだ。最初は「は?」と思うことも多かったけど、考えてみれば市野さんみたいな要望は仕事の中でいくらでもある。例えば「明日急遽出張、しかも二案持って」こんな感じ。それを思うと市野さんの思いつきの行動にも「次は何?」「そう来たか」と余裕で構えられるようになってきたのだ。
いいんだか、悪いんだか。
だから、その後丸々二日間、市野さんが緊急のトラブル対応をすることになっても平気だった。
市野さんの電話が鳴ったのは、無事ホテルに着いて早速イチャイチャしようとしていた時だった。切れては鳴り、切れては鳴りを繰り返してるのに、ずっと無視。私が「出たら?」と言うまで我慢した市野さんを褒めてあげたい。それでも私が部屋にいると申し訳なさそうにするから、ひとりで出かけることにした。
(お腹も空いたし)
ホテルは素晴らしかった。崖に面した部屋の窓からは海が見渡せるのに、外から見るとその存在が目立たないように木々に隠されているような感じがする。たとえ、ホテルの中にずっといても十分素敵な時間を過ごせると思う。
でも、やっぱり街歩きは楽しい。海に向かう道を適当に歩くだけで、いろいろな種類のご飯屋さんやセンスの良いカフェがたくさん見つかった。海鮮のお店でお昼を食べて、ブラブラして海を見て、最後に市野さんにお土産を買ってホテルに戻った。
そもそも、一緒にいる間に市野さんが一度も仕事をしなかったことはない。私もよく出張に出かけるのもあって、ひとりで出かけたりご飯を食べるのは平気。だから、放っておかれても問題ない。せっかく来たのに市野さんはいいのかな、そんなことの方がよっぽど気になってしまっていた。
部屋に戻っても、市野さんは変わらずダイニングテーブルにいろいろ広げて仕事中だった。ちょうど誰かとのオンライン会議が終わったようで、PCの画面には現場の様子が映っていて、遠隔で指示を出していた。
「行かなくて大丈夫?」
私は急な予定変更にだって対応可能ですよ。
「ううん。大丈夫」
「はい、これ。ご飯食べてないでしょ?」
「えっ、ありがと。ひとりで出かけさせちゃってごめん」
「ううん、全然平気。まだ終わってないんでしょ?続けて」
「ホントごめん。なる早で終わらせるから」
「がんばってね。私、ちょっと昼寝するね」
生理中は昼寝が何よりものご褒美だ。お風呂に入って、寝て。結局その日はダラダラと過ごし、翌日は早朝に起きて海に行った。SUPツアーへの参加を申し込んでおいたのだ。二時間たっぷりとSUPを楽しみ、ツアーで一緒になった人たちとブランチ。その後は、また市野さんにお土産を買ってホテルに戻った。
市野さんはたぶん寝ていない。もうすぐ終わると言ってはいるけど、大丈夫かな。私はお風呂に入って、ベッドに寝転んで昼寝をした。あ〜、なんて極楽なの。
ギシッ。
何時間経っただろう。ベッドが軋む音で目を覚ますと、市野さんに見下ろされていた。そのままドサっと倒れ込んで抱きついてくる。
「終わった……」
「お疲れ様。眠い?」
「平気」
いや、そのクマすごいよ。
「これ以上、頼ってきたらクビにするから」
「はは。ダメだって」
「ごめん、まじでごめん」
「ううん。たくさん寝られた」
「……生理って、辛い?」
「私は軽いけど、お腹痛くて疲れるし眠い。お腹と背中にカイロ貼るんだよ」
「今どう?」
「お腹がちょっと痛いくらい」
市野さんの手が私のお腹に触れる。
「ん?」
「カイロないから、代わりに」
(その位置。正○丸が必要な腹痛じゃないんだから)
笑いそうになった。でも気持ちはうれしいから、市野さんの手を取って下の位置にずらす。
「生理で痛いのはこの辺」
「えっ、こんな下?」
「うん。あったかい……」
「連れ出してごめん。しかも放置したし」
「平気だって」
市野さんの髪が、いつもよりクシャクシャになっているから指でならしてあげた。
「寝た方が良さそう」
「いや、もったいない」
「じゃあ、お風呂入る?」
「入れるの?」
「私は足湯だけど」
市野さんの目が、オヤツを待てされてる犬みたいになった。と思ったら、さっさとTシャツを脱いでお風呂モード全開。「先に洗ってる」とお風呂に行ってしまった。
(洗ってあげようと思ったのに)
干しておいたビキニを着て、Tシャツを羽織った。濡れるかもと思ってSUPのお店で買ったシンプルな黒ビキニ。温泉だ、お風呂だと聞いて想像するほどのエロさがないのは許してほしい。それに、市野さんはきっとハイスピードで頭や体を洗っているだろうからノロノロとはしていられない。髪をお団子にまとめて、お風呂に入った。
「流そうか?」
「もう終わる」
(早いって)
待っている間、湯船の縁に腰掛けて海を眺めた。露天風呂に屋根がつけられた贅沢な造り。足だけしか浸かれないのは残念だけど、温まりながら海を見て涼しい風を感じられるのは心地良かった。
ザブン!
市野さんが湯船に飛び込むと同時に、私は立ち上がっていた。優れた反射神経に感謝。座ったままなら、きっとずぶ濡れになっていた。はしゃぎ方まで犬みたいになってる。そんなわんこモードのまま近くに移動してきて、私の膝下に絡みついた。
「ん?」
「脚、浮腫むんでしょ?マッサージしてあげる」
私の脚を両手で揉み始めた。でも適当。男性は日頃リンパマッサージなんてしないだろうから仕方ないかな。で、やっぱり手がだんだんと上に移動してきたから、自分の手を重ねて止めた。今日は本当にダメ。
「気持ちいい。ありがとう」
「ん」
「せっかくなのに、一緒に入れなくてごめんね」
「また来ればいい」
市野さんも湯船から上がって隣に座る。濡れた手で私の頬を挟んでキス。そういえば、昨日からキスすらしてなかった気がする。
「Tシャツ脱げる?」
私が答える前に、Tシャツは胸までまくり上げられていた。私の膝の上に乗る市野さん。なんでジッと胸を見つめているんだろ?このビキニ好きじゃない?すると、突然片方の胸をグイッと掴まれた。
「これ生地が薄すぎじゃない?乳首が見えてる」
(隠す必要ないと思ってパッドを外したんだけど。って、どさくさに紛れてイジらないで……)
市野さんが片方のブラを乱暴に引っ張って、胸がポロンとむき出しになった。待ってましたとばかりに吸い付いて、チュパ、ジュルッ、チュプッ……と、これでもかってくらいにいやらしい音を立てる。もう片方の胸は強い力で揉みしだかれていて、布がこすれてもどかしくなっていた。
「気持ちいい……」
「コレも脱いでよ」
ストラップが引っ張られる。胸にしがみついたままの上目遣いって、かわいいな。
「脱がさなくていいの?」
念のために聞いたら首の後ろをガサゴソ、背中の紐をガサゴソ。普段と勝手が違うからか、市野さんは若干イラつきながらブラを剥ぎ取った。
そして、またしても髪を執拗に触る。下ろしていても一本縛りでもポニーテールでもこんなに食いつかないのに。後れ毛が好物なのかな?
「この髪型好き?」
「……うん」
短い息継ぎの間に答えてくれた。胸を口で、髪は指で、なでまくってなでまくるのに市野さんは忙しい。前から思ってたけど、市野さんはおっぱいが好き過ぎる。
「もっとしたい」
予想していたとおり、市野さんの手はおしりに移っていた。ショーツの中に手を入れて、指に力を入れたり抜いたり。
「挿れるのはダメ」
そういうプレイは趣味じゃない。
「わかってる。もっと触らせて」
「のぼせちゃうから、ベッドに行こう」
お風呂から上がってショーツを着替え、上にショートパンツを履いた。だって、市野さんは絶対にダメなことをしてくる。今だって、彼はたいして体も拭かずに私をベッドに押し倒して、髪から水滴を落としていた。
「ね?ねぇ、なんかキス……、激しい」
「これ、口紅?好きだな」
「味のこと?」
だって、色はたいしてついてない。
「なんかおいしそう」
市野さんは唇で私の下唇をつまんだり、表面を舐めとったり、赤くなってしまいそうなくらいに口を集中攻撃。いつものデパコスリップより、ドラッグストアで三百円のリップクリームの方が食いつくなんて、コスパ最高だわ。
「挿れられなくてごめんね」
「ううん」
と言ってはいるものの苦しそう。眉間にシワが寄ってるし、私の下腹部に押し付けられた市野さんはとっくに準備万端。なのに行き場がない……。だから私はそっと手を伸ばした。相変わらず、私の体を愛撫しまくっていた市野さんがビクッと震えて、唇からキスが外れた。
「気持ちいい?」
市野さんがボーッとしてる。その隙に私はベッドを降りて、手の中で脈を打っていた市野さんを口に含んだ。頭上から「ううっ」と響く小さな唸り声。
「翠ッ。それ……」
市野さんを見上げると顔が真っ赤。口では「ダメだ」と言いながら、彼の手は私の頭をグイグイと自分に押し付ける。「もっと奥まで」とねだっているみたい。
「もうダメ……」
そう言うと、市野さんはいきなり抜いて背中を向けてしまった。口や体に出されるのは嫌だけど、今日は仕方ないかなと思ってたのに。
「市野さん?」
一向にこちらを向いてくれないから、背中に張り付いて頬にキスをした。
「気持ち良かった?」
「うん」
「もっとしてほしい?」
照れているのか返事がない。だから、今度は私からキスをたっぷりプレゼントする。
「翠、お願いがある」
「何?」
モジモジしてるの、なんでだろ?
「おっぱいに挟んでくれる?」
ふっ(笑)
お安い御用で。
笑わないようにするのが大変だった。でも、おねだりするのに顔を赤くする市野さんにはキュンとした。胸に挟んでって、そういえばしたことなかったかも。だって、私のは挟むほど大きくない。あと、これって挟まれて気持ちいいものなんだろうか?でも……
すごく喜んでもらえた、と思う。胸の次は太もも、太ももの次は挟める所全部、そしてまた胸。あまりに気持ち良さそうにしてくれるから、私の方が疼いて辛くなってしまった。
「俺ばっかりごめん」
「いいの」
「好きだよ」
「うん」
「翠は?」
「ん?」
「好き?俺のこと」
「うん」
「うんじゃなくて」
「好き」
私に覆いかぶさる市野さんの、荒い息を聞く。答えはしたけど、本当のところの私は激しく腰を動かす市野さんを胸の間に留めておくために、両方の胸を寄せることに集中していた。
「ずっと一緒にいよう」
「……うん」
結構適当。最中の言葉なんて、果てたらどうせ忘れるでしょ。
「だからさ、翠」
「ん……」
「結婚しよ」
へ……?
「とりあえず、なる早で、一緒に住もう……」
私は変わらず、むちゃくちゃに揺さぶられている真っ最中。
ねぇ。
それ。
今言う?
いやいや、絶対違うから!
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