うつしみ

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うつしみ

 はじめは、どうということもない些細な違和感だった。  真夜中、深い海の底から少しだけ上に持ち上げられたような感覚。決して覚醒してはいないのだけれど、周りの音や感触をわずかに感じる。  私はその浅い意識の中で微動だにせず横たわっている。  何か乾いた紙がこすれるような、かさかさという音が聞こえた。それと同時に、手足に何かがまとわりつく感触が生まれる。  目が覚めてしまうほどの刺激ではない。  しかし、それでも長く続けば不快だ。私は手足にまとわりつく何者かを振り払おうと手を持ち上げた。  その瞬間、先ほどまでの感覚も音も何もかもが消え去った。目を開けて映るのは、見慣れた自室の天井だ。窓の外はもうすっかり明るくなっている。なんてことはない、ただの夢だったのだ。  まだ起きるには早い時間だったが、たまには早起きも良いだろう。私はゆっくりとベッドから出て身支度を始めた。 「あれ、今日は珍しく早いね。何かあったの? 」 「もしかして徹夜? 」  まだ人がまばらな講義室で、そう声をかけられた。 「変な夢のせいで、ちょっと早く目が覚めちゃったの」  私は前の席に座った彼女たちに、今日の夢を話して聞かせた。 「夢の中でも寝てたってこと? っていうか、夢の中なのに感触があるんだ」 「それはそんなに変じゃなくない? 私もたまにそういう夢見るよ。この前ハムスターに噛まれる夢見た時、現実みたいに痛かったもん」 「それって、現実世界でも怪我してるんじゃないの」  彼女たちはそう言って笑った。
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