3人が本棚に入れています
本棚に追加
私はふと、自分がどこかに横たわっていることに気づいた。かさかさというあの音がまた聞こえて、心臓が早鐘を打つ。
いつの間に眠ってしまったのだろう。さっきまで確かにパソコンに向かっていたはずなのに。
昨日とは違う、鈍い痛みが全身を覆っている。何かが自分の体を這い回っているのが分かった。
何か細い、乾いた固いものと、冷たく柔らかい何か。硬い毛が足に触れる。耳を澄ますと、何か息遣いのようなものも聞こえる。
細く硬いものが顔の上で動くのを感じて、私は目を開けた。あっさりと覆いが取り除かれた視界の端で、黒く長い触角が動いた。
私は叫んで飛び起きようとした。しかし、私の体は横たわったままだ。その時初めて、体を動かせないことに気づいた。開けた瞼を再び閉じることさえ叶わない。
私はなす術もなく、顔の上を黒光りする虫が這い回るのを眺めていた。
聞き慣れた電子音が鳴って、私は机から勢いよく身を起こした。思わずあたりを見回す。当然あの忌々しい虫はどこにもいない。体は思い通りに動く。
それでも何となく体にあの感触が残っているような気がする。シャワーを浴びて、そのまま外出することに決めた。
空は私の屈託を笑うかのような爽やかな快晴だ。強すぎる日差しを避けるために、街路樹の影を歩く。
足を進めるうちに、葉の間で何か動くものがあることに気づいた。
近寄ってみると、それは羽を片方もがれた蝶だった。目を凝らすと、その周りには細い糸が見える。巣の主は不在の様だった。
そうか、蜘蛛は蝶を食べるのか。そう思った瞬間、私の脳裏にあまりにもおぞましい考えがよぎった。
全身を這い回る感触。ピリピリとした痛み。
夢の中で、あの虫たちは私を食べているのではないか。
最初のコメントを投稿しよう!