うつしみ

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 私はふと、自分がどこかに横たわっていることに気づいた。かさかさというあの音がまた聞こえて、心臓が早鐘を打つ。  いつの間に眠ってしまったのだろう。さっきまで確かにパソコンに向かっていたはずなのに。  昨日とは違う、鈍い痛みが全身を覆っている。何かが自分の体を這い回っているのが分かった。  何か細い、乾いた固いものと、冷たく柔らかい何か。硬い毛が足に触れる。耳を澄ますと、何か息遣いのようなものも聞こえる。  細く硬いものが顔の上で動くのを感じて、私は目を開けた。あっさりと覆いが取り除かれた視界の端で、黒く長い触角が動いた。  私は叫んで飛び起きようとした。しかし、私の体は横たわったままだ。その時初めて、体を動かせないことに気づいた。開けた瞼を再び閉じることさえ叶わない。  私はなす術もなく、顔の上を黒光りする虫が這い回るのを眺めていた。  聞き慣れた電子音が鳴って、私は机から勢いよく身を起こした。思わずあたりを見回す。当然あの忌々しい虫はどこにもいない。体は思い通りに動く。  それでも何となく体にあの感触が残っているような気がする。シャワーを浴びて、そのまま外出することに決めた。  空は私の屈託を笑うかのような爽やかな快晴だ。強すぎる日差しを避けるために、街路樹の影を歩く。  足を進めるうちに、葉の間で何か動くものがあることに気づいた。  近寄ってみると、それは羽を片方もがれた蝶だった。目を凝らすと、その周りには細い糸が見える。巣の主は不在の様だった。  そうか、蜘蛛は蝶を食べるのか。そう思った瞬間、私の脳裏にあまりにもおぞましい考えがよぎった。  全身を這い回る感触。ピリピリとした痛み。  夢の中で、あの虫たちは私を食べているのではないか。
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