うつしみ

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 明るい教室の中にいても、あの闇が、絶望が、どこかにこびりついて離れない。 「ねえ、顔色悪くない? 大丈夫? 」  大丈夫、と返すのが精一杯だった。  重い頭をあげて、黒板を見つめる。チャイムが鳴り終わると、その前に立つ担当教員が、大きく「夢と現実」と書いた。 「今日の心理学概論のテーマは夢です。まず初めにグループディスカッションをします。周りの人とここに書いたテーマで話し合ってみてください」  よりによって今日がこのテーマとは。私はこの奇妙な符合に気味の悪さを感じずにはいられなかった。  私のグループは、二人の友人と、見知らぬ男子学生二人の五人グループだった。  口火を切ったのは、友人の一人だった。 「夢と現実の見分け方って何だと思います? 」  彼女の言葉に、私たちは顔を見合わせた。 「頬をつねってみる、なんてよく言いますけどね」  男子学生の一人が答えた。 「それじゃだめなんですよ。感触のある夢もあるらしいから」  そうだよね、と彼女は私に呼び掛けた。私は小さく頷く。 「そっか。じゃあ、毎回状況が違う、とかは? 」 「同じ夢を見ることもあるじゃないですか」 「まあそうだけど。でも、そういう時って、現実と違って連続性がないでしょ。初めの状況に戻ってたりとかさ。そういう意味では、毎回別の世界ってことになるんじゃないかな」  彼の言葉に皆が感心したように頷いた。私も周りと同じような表情を作りながら、必死に震えを抑えていた。 「僕は、夢と現実の違いは、覚めるかどうかってとこにあると思うな」  そう言ったもう一人の男子学生に、一同の視線が集まる。 「夢の世界に入らない、つまり眠らないってことはできるじゃないですか。でも、どんなに覚めたくないなって思っても、夢から覚めないってことはできないでしょ」  背中を冷や汗がつたうのがわかった。 「なるほど、面白いですね。でも、連続性のある夢って、本当にあり得ないのかな。それに、徹夜するのって結構難しいし、ちょっと不謹慎かもしれないですけど、植物人間になっちゃったりしたら、夢から覚めないってこともあるんじゃないですか」  もう一人の友人がそう言うと、男子学生は口元に笑みを浮かべた。 「まあ、確かにそういうこともあり得るかもね。だけどさ、二度と冷めない夢とか、毎日必ず見て、しかも連続性のある夢とかって、もうそれはその人にとっては現実と同じなんじゃないの」
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