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もう何時間こうしているだろうか。
講義が終わってから、どうやって部屋に帰ってきたのかすら曖昧だ。
私は部屋の片隅で蹲って、何度もディスカッションを思い返している。
夢には連続性がない。
眠らないことはできるが、夢から覚めないことはできない。
この数日を思い出す。
私の体は、確実にあの虫たちに蝕まれていった。
眠らないでいようとするのに、いつの間にか私は眠ってしまっている。
何度も口の中で友人たちの名前を呟く。自分の名前、家族の名前、出身地、学校、様々な名前を言ってみる。
段々、その名前が空虚なものに思えてくる。それらが今生まれたのではなくて、ずっと以前から存在していたと証明するものは何もない。
本当にあれは夢なのか。
実は、あちらの世界こそが現実で、今この瞬間こそが夢なのではないか。
もしそうなら、私はもう二度とこの世界で目覚めることはないのかもしれない。
気づかぬうちにあふれ出た涙がカーペットを濡らした。
そういえば、この数日間、こちらの世界で痛みを感じたことがあっただろうか。
震える手で、カッターナイフを取り上げた。
腕に、その切っ先を近づける。
もし、これで痛みを感じなかったとしたら――。
銀の刃に映った、歪んだ自分の顔を見つめる。
呼吸が浅くなり、意識が薄れてゆく。
カッターが床に落ちる音が、遠く聞こえた。
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