夢の中で…

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俺はどこかにいる。 どこなのかはわからない。 白い世界で一人、佇む。 俺は歩き出す。 目的地はないけれど…。 ただ歩く。 少しすると白い世界の中に花畑を見つけた。 そこに一人の少女がいる。 5歳ぐらいの少女。 その少女が振り返る。 「…っ!」 彼女はっ…。 「か、のん…?」 花音なのか…? 『りゅうちゃん、久しぶりだね』 微笑む彼女。 何一つ変わっていない。 笑顔も声も…。 生きていた頃の花音だ。 「花音っ…」 彼女に駆け寄り、ぎゅっと抱きしめる。 『わっ…。ふふっ』 俺の行動に驚きつつも嬉しそうに微笑んでくれる花音が愛おしい。 『りゅうちゃん…』 花音も俺の腰に腕を回し、ぎゅっと抱きしめてくれる。 「花音、花音…」 それからどれくらい抱き合っていただろうか。 花音がそっと俺から離れる。 『りゅうちゃん、18歳の誕生日おめでとう』 「っ…あ、りがとう」 複雑だ。 花音に誕生日を祝ってもらえるのは嬉しい。 だけど…。 本当なら花音は今年15歳のはずだ。 だが、目の前にいるのは5歳の少女。 「花音…。俺…」 『ん?』 「ご、めん…。ごめん…」 『りゅうちゃん…』 「俺のせい、でっ…。俺が守れなかったから…」 花音が亡くなった。 俺のせいで…。 『りゅうちゃん、りゅうちゃんはいつも私を守ってくれていたよ』 「そんなことはないっ。あの時…。一番そばにいたのに…」 花音が波に攫われて心臓が潰れそうなほど痛かった。 自分のせいで…。 目を一瞬離したせいで…。 一生花音を失ってしまった。 『りゅうちゃんは私を守ってくれたよ?ずっと私のことを想ってくれているじゃん。私のことを忘れないでいてくれるから、りゅうちゃんの心の中に私は生きていられる』 「花音…。だけど…」 確かにずっと花音は俺の心の中で生きていた。 けど…。 『それにね、りゅうちゃんのせいじゃないよ?私が死んだのは』 「っ…」 『あれは誰も予測できなかったんだから。自然界は私たち人間にはどうしようもないことだから。だからりゅうちゃんのせいじゃない』 「だけど…。俺が一番近くにいた。目を離さなければ…」 『りゅうちゃん!もう自分を責めるのはやめて…』 「か、のん…?」 なんでそこまで言ってくれるんだ。 俺のせいじゃないって…。 『…今日はりゅうちゃんに言いたいことがあって会いに来たの』 「な、に…?」 『りゅうちゃん。もう私のことはいいから…。ちゃんと自分の将来を考えて、お願い。りゅうちゃんの将来はりゅうちゃんのものなんだから…』 「じゃあ花音は?花音の未来は俺が奪ったようなもんだ」 『違う!違うよっ。りゅうちゃんのせいじゃない!何回言えばわかるの!りゅうちゃんのバカ!!』 「っ…」 『私は1ミリたりともりゅうちゃんのせいって思ってないのに…。勝手に独りよがりな考え方しないでっ!!』 「かの、ん…」 『ごめん、怒鳴っちゃって…』 「あ、あ…」 こんなに怒っている花音を見たのは初めてだ。 『でも…。私の最後のお願い、聞いてくれる?』 「…あぁ」 花音のお願い…。 なんだろうか。 『りゅうちゃん、ちゃんと自分の将来を考えて。自分がしたいことをして』 「っ…」 『受験生でしょ?自分の将来を真剣に考えて。私のこと気にせずに』 「…だが…」 『私は、りゅうちゃんが選んだ道なら全力で応援するよ?だから、私に罪悪感があるって思って自分の進みたい道を諦めないで』 「っ…花音…」 花音の言葉に思わず涙ぐんでしまった。 『りゅうちゃん、応援しているからね』 「花音っ…」 花音の言葉が嬉しくて、花音をまた抱きしめてしまった。 『ふふっ』 嬉しそうに笑ってくれる花音。 『大好き!りゅうちゃん』 「俺もだよ、花音」 無邪気に笑っている。 あぁ…。 懐かしいな…。 まるであの頃に戻ったかのようだ。 『りゅうちゃんっ。頭をなでてっ』 「あぁ」 『えへへ…』 本当に可愛いな。 そうだ…。 俺はずっとこの笑顔が好きだった。 だからいつも頭を撫でてあげた。 その笑顔を見せて欲しくて…。
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