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プロローグ
私は一人、お祭りで賑わっている通りを歩く。たくさんの人々の盛り上がっている声が、夜の静寂を打ち破り続ける。
何時も閑散とした通りは、多くの露店で埋め尽くされ、露店から響く掛け声が周りを彩り、賑わいを作って行く。
左右に並ぶ露店によって造られた通りを歩いて行き、掘っ建て小屋のような感じの粗末な建物が目に入る。建物の前ではおばさんが大きな声を出して、お客を呼び込んでいる。一体、何をやっているのだろう。
おばさんが振りまく活気に導かれ、建物に向かって行く。
建物の入口の看板の絵柄を見て、身体が震え出し、歩みが止まる。
美しい裸の女性の身体に螺旋状に絡みつく緑色の大きな蛇。その蛇の鋭過ぎる睨みに、両脚がビクビクと震え出してしまう。
思わず息を飲み込み、異常な程に集中力を高めて見つめてしまう。目を背けたくなるようなおどろおどろした世界観なのに、身体が魂ごと吸い込まれていくような感覚に陥ってしまうのだ。
気がついたら、建物の中に入っていた。
乱雑とした会場内には、座る所はなく、立った状態で観覧をしなければならない状態だ。
ステージの照明が一気に明るくなり、着物を着た女性が中央に立つ。
拍手の音が、狭い会場内を埋め尽くす。
日本人形のような姿をした女性が、手にしていたズタ袋の中に手を突っ込み、何かを取り出した。
思わず両手を口に当て、息を詰まらせながらも、トーンの高い声を上げてしまう。
彼女が手にしたのは、蛇だった。
しかも生きている。
彼女は最前列の人達に、微笑みながら、クネクネと動く蛇を見せたり、触らせたりしていた。
観客達のどよめきが響く中、彼女は蛇の首と尻尾の辺りを掴み、伸ばした状態にして、蛇の身体を舐め回す。
妖艶な表情を浮かべて、蛇を舐め回す姿に危機迫るような艶美さを感じながら、唾をゆっくりと飲み込む。
彼女は蛇を舐め回した後、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
顔を両手で覆い、悲鳴を上げてしまった。
けど、両手は隙間だらけ……。
彼女は蛇の首の辺りに噛みつき、蛇の身体を食い千切った!
飛び散った蛇の鮮血により、彼女の顔は深紅に染まる。
深紅に染まった妖艶な表情に魅入ってしまう。
彼女は笑みを浮かべ、口から鮮血を垂らしながら、観客席を怪し過ぎる視線で、じっくりと見渡す。
視線が遭ってしまう。
彼女は唾を吐くような感じで、口から何かを吐きだした。
私の身体に何かが当たった。
足元に視線を送る。
足元に転がっていたのは、彼女に食い千切られ、無様に口を開いた蛇の頭!
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