人間火炎放射機

1/2
前へ
/33ページ
次へ

 人間火炎放射機

 最初に取りかかったのは、火吹きだ。これについては、やり方もネットに詳しく載っていた。ただ、かなり危険なものとなるので、プロの方の指導を受けながら行って下さい。とかいてあったが……。  引き籠りだった私にそんな伝手はない。  独学でやるしかないよね。  いきなり燃料を口に含み、火を放つ気は起こらなかった。  無理だろう……。  最初は水を口に含み、霧状に吹き出せるようになるまで、ひたすら練習を続けた。  中々、霧状にはならない。大きな水滴がボタボタと足元に毀れてしまう。これでは、実戦になったら、火の塊が下に落ちてしまい、事故に繋がりかねない。  とにかく綺麗に霧状に吹き切れるようになるまで、練習をするしかない。 時々、霧状に上手く吐けても飛距離が全くない。これでは、自分が炎に襲われてしまう。吹き切る力が足りないのか……。  また、息も直ぐに切れてしまい、口や頬も直ぐ痛くなってきて、練習を持続することが出来なかった。体力をつけるしかない。  身体を鍛えよう。走り込みや筋トレをするしかない。体力をつけなければ、先には進めないだろう。  それに、一日で出来るようになる訳がない。  私は翌日から、走り込みと筋トレを始めた。数年間の自堕落な生活を送り続けた、私の体は簡単に悲鳴を上げた。直ぐに息が切れてしまい、まともに走り続けることが出来ないのだ。  それでも、続けるしかない。必ず、あの危険な芸を身につけて、ステージに立ち、映像を見ているだけでは、見出すことが出来なかった境地に辿りつくのだ。  身体を鍛え始めた一週間はかなりきつかった。身体中が痛くなり、家にいる時は、何かをする度に、筋肉痛に襲われた。  今まで怠け続けた罰を受けているのだろうか。  そんな感覚にすら陥った時もあったが、続けることにより身体が慣れてきたのか、それ以後は痛みに悩む事はなくなってきた。走る距離も長くし、筋トレの回数も増やしていくことが出来た。  体力づくりに併せて、水を霧状に噴射する練習も続けた。 最初は、本の僅かな量しか、霧状にして吹き切ることが出来なかったが、普通に口の中に含む一口分の水量なら、霧状にして吹き切る事が出来るようになったのだ。  練習を重ねることにより、大量に含んで、霧状に連射して吹く事も出来るようになってきた。  水を吹く時は、息を吸わないようにもしている。息を吸ってしまったら、病院送りになる大事故に繋がりかねない。と載っていたから。  こうなってくると、実際に口に燃料を含んで、火を吹いてみようと言う欲に、誘惑をされてしまう。  まだ、水で練習を続けた方が良いのでは。  そんな気持ちもあったが、欲が勝った。人間とは、欲には勝てない生物なのだから、仕方ないよね。  私は、火を吹く準備に取り掛かってしまったのだ。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加