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鬼の顔
記憶にあるあの女は、鬼のような顔をしている。いつも鬼のような顔をしていた。幼心に私は母がとても怖かった。昔話に出てくる山姥や鬼婆は、あの女に似ていた。
保育園で、お母さんの絵を描いた。
私の中のお母さんは、いつも鬼のような顔をしていたから、私は鬼を描いた。すると先生に驚かれ、新しい紙を差し出され、
「お母さんを描いてね」
と言われた。
目立つ怪我はしたことがない。私たち家族には、目に見える問題がなく、視覚化されないからこそ、表に出なかった。
恐らく保育士も近所の人たちも、私の家は「普通の家」と思っていただろう。
私もあの女が迎えに来れば、いつでも素直に後ろをくっついて行った。
ついて行かないと、捨てられてしまうから。
ついて行かないと、捨てられて死んでしまうって教えられていたから。
そして家のことを誰かに話すと、怖〜い鬼が来て殺されるよ、と聞かされていたから、家であることは誰にも言わなかった。
だけど「お母さんの顔」なんて、一般的なお母さんの顔なんか思いつかない。私の「お母さん」があの女だとしたら、それは鬼だ。
だから鬼の顔を描いたのに問題となり、更には保育士があの女にそれを言ってしまったらしく、私は家でひどく殴られ罵られた。
「お母さんの顔を描くように言われたら、ちゃんとお母さんの顔を描きなさい!」
と言われながら。
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