夏の終わり

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

夏の終わり

縁台で食べる金時は最高だ。小豆の山腹に練乳の沢が出来る。最初の一匙が舌下で蕩ける。新しい夏に終戦の追悼はない。 「幸福とは得るより捨てる事なの」 頃菜は由美子に戦争の無駄を説いた。日輪が青から橙色へ切れ目ないグラデーションを織りなす。「夏休みが永遠に続きますように」 由美子は蒼天に祈った。 しかし束の間の平和は破られる。榎並が手榴弾を投げ、茅葺屋根が爆散する。 西瓜のように頃菜の笑顔が割れた。爆風が障子を桟だけにし、すりガラスが粉微塵に散る。 「捨てる物にもよりけりよ」 詩織も銃を取り、小柳をミンチにする。 マランとルフレ。相反する芳香が生み出す白日夢のなかで彼女は内なる声に諭された。「あやうく騙されるところだった。人は動物よ。活動する生き物なの」 黄桜隊が援護射撃するなか、詩織は畑を一気に抜けた。目指すは危機管理棟の緊急端末だ。自爆コードを入力し酵素を世界の「外」へ拡散する腹積もりだ。 「やめて!お願い。夏休みの思い出を壊さないで」 由美子が立ちふさがるが銃口が火を噴く。 「その為に戦うの。目下の敵は”あいつら”」 詩織は屍を乗り越えて農園を爆破した。衝撃はミドルデッキを突き抜け、外壁をうがつ。そこから青い奔流が荒廃した大地へ吹き抜ける。  透明な支配者は酵素で燻蒸され、歴史の一ページを明け渡した。ひと夏の思い出は新章に記される。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!