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 謂うならば寒空と僅かなれど湯気から煙るのか。是非を問わずにせよ天幕の夜空へと掛かりつつある三日月のありたりならんことともつかぬところで早々ながらにそれでも、冷めやらぬ温泉へと浸った時分にありそして温(ぬく)まり。  平常のこと日頃より嗜まれては候らえどとも彼独自の概念より発生せざるをえなかったに相違ないのだった言語としての口語の羅列を口頭へと昇らせることなどしない事項とすれば、得てしてありえないことだったのではなかろうと、人語にて会話を成しうる人間とは違い二極に分かたれた回答を求むような真似など猿の群れはせずに居り。  雌雄の猿より甚だしく見詰められるにあたり、彼は自身にて人間として独自の概念からよりこれまで過去に依存してきた温もりである滾々と湧き出している泉の端くれから抜け出そうとしていたのだった。  彼においては単独にてこの地へと訪れた旅の薬売りであったことから、日本における各地を転々と行脚していたのだったけれども。  湯のうちから腰から二本両方追随しうる脚にて立ちあがっては周辺における風景を見回したのだった。丁度視線と視線が克ちあうこと甚だしかった。  来訪していた男は猿にたいして些かの寂寥の念を自覚したのだった。それらは彼独自の個人的な願望であったところで断じて概ねの人類特有だなどというきらいにかんしては、無きことにもひとしいのだという思考としての思惑が脳裡へと交わったところにしたことで叶えられようと叶えられまいと。  視界の範囲内において猿の群れからは隠しておいた荷物を放置したままにおける岩陰から男は、それらを装着することなどなしに駆けだしていたのだった。行動にかんして説明を設けるとしたならば猿の群れにおいてが浸っていた湯から立ち去ろうとしたところを追うためであったのだった。  吹雪き始めた深夜。産まれながら有していた裸体のままに猿の群れへと加担せんために全裸のままに男は猿としての鳴き声を上げながらも、自身を猿と見做しながらにして猿の所作を真似しながらも人間社会への隔たりを自分自身へと実行することがらにたいして遂に成し遂げたのだった。  顕著な野生を余すことなく発揮せんがため、紛れもなしに彼はやがて願望として至るにかねてよりから抱いていた回帰へ向けられた本能から猿の群れへと加担していた。 山で猿として暮らすうちに生活の場を群れのうちへと設けていたところを複数人の猟師が山にて狩猟のさいにおいてより観たとか観なかったとか。     了
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