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第43話 帝都アルバニアⅢ
街をぶらつきながら、色々な店や街並みを見て回る。途中、台の上から水が常時発射されている施設を発見した。これは何だと思い、その傍らに座っていた老人に聞いてみたら、『噴水』というものらしい。何の為にあるのかさっぱり分からなかった俺に、その老人は噴水は富の象徴であり、また景観の美化にも貢献し、暑い時期には周辺の冷却効果もあると言っていた。
なるほどな。明らかな無駄に見えても、その無駄の中に何かしらの意味を与えることで、存在価値をひねり出しているのだ。夜になると光が照らされ、また見え方が変わるらしい。一見無駄に見えても即無駄と断罪する事はよくない。
俺は側の露店で売っていた、ローグバイソンの肉串を食べながら夜の噴水を想像してみる。
「おそらく、光の反射と屈折が織りなす水柱と水泡はさぞ―――」
「ん~? 黒髪でその油断ならん佇まいは…ジン!? お前もしかしてジンか!?」
「!? …はい?」
肉串を片手に幻想的な光景をイメージしていると、突然名を呼ばれ、驚きながらも振り向いて声の主を確かめた。
「あ!」
急いで肉串を頬張り、声の主へ駆け寄る。
胸を張り、手を後ろに組んで挨拶をした。
「お疲れ様です! ベルモッド指揮官!」
ベルモッドは2年前までアルバニア騎士団スルト駐屯隊の指揮官を務めていた男である。この挨拶はベルモッドがまだスルト駐屯隊所属だった頃、ジンが他の騎士団員のマネをしてやっていたことである。
周囲の人が何事かと2人をよそよそしく見ているが、ジンは大して気にしない。
「やめろやめろ! こんな街中で! もう俺は指揮官じゃねぇよ! ただの―――」
「?」
「中隊長だ! はっはっは!」
「おお! 偉くなったんですね! おめでとうございます!」
「村にいた頃は小隊長だったが、任期明けでこっちに戻ったら勝手に出世したんだよ! いや~参ったぜ、はーはっは! って、俺は子供に何を自慢してんだ…と、とにかく、村から出て来たんだな!?」
「はい! ようやく父に課された条件を満たすことが出来ました!」
「つまり、ロンさんに勝ったという事か! すごいじゃないか! 俺は今日は非番だし少し時間がある、どうだ? その辺で一杯やりながら」
「お供します!」
噴水そばで目立ちまくっていた背の高い大男と黒髪の少年は、いそいそとその場を後にした。
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