第44話 スクエアガーデン

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第44話 スクエアガーデン

「こちらになります。どうぞお入り下さい」 「はい。失礼します」  カーネル卿アルバニア別邸を訪れた俺は、管理人のワイドさんに邸内に通され、目的の庭に到着した。   「こちらの東側の壁沿いの木を、西の壁際に移して頂きたいのです」  指示された木は合計で10本。何でもカーネル卿が娘の年齢と同じ数だけ植えているらしく、東側の壁が一杯になってしまったので、広い西側に植え替えて欲しいとの事だ。  事情は正直どうでもいいが、部外者の俺にわざわざそんな事を教えるという事は、カーネル卿の愛娘絡みの木である事をそれとなく伝え、大事に扱えという事を言いたいのであろう。回りくどい言い方をせずはっきりと言えばいいのではと思うが、そういう所が貴族の貴族たる所以なのだろうか。 「わかりました。早速作業に入らせて頂きます」 「よろしくお願い致します。本日の作業が終わりましたら、そこの女中(メイド)にお申し付けください」 「承知いたしました」  特に大きな木でもない。7~8mと言ったところか…10本同時でも問題無いが、ここは念のため2回に分けて移動させるか。  地魔法と同じように地面に手を付け、魔法を発動する。 「――― 樹霊の意思(ドリアドウィル) 」  魔法が発動すると木がウネウネと動き出し、あちこちから木の根が顔を出す。木の根が土中からすべて出ると、次は根が足の役割をし、5本の木が西側に行進を始める。魔法を知らなければただの怪現象だ。 「あ、怖がらないで大丈夫ですよ! 魔力を通して私の意思で操ってますから!」  そばで様子を監視(みて)いた女中(メイド)の顔が引きつっていたので一応フォロー。コクコクと頷いている。そうしている間にも5本の木は目的地まで行進し、俺は魔力の方向を変える。  ズズズッ ボコッ ボコッ ボコボコボコ  指定の場所で木()は根を下ろし、移動完了。同じように残りの5本も移動させ、もともと木があった場所に空いた穴を、あらかじめ借りていた道具で埋めて作業終了。  所要時間10分。  うむ、仕事は早いに越したことは無い。  終わった事を女中(メイド)に伝えようとするが既にいなくなっており、代わりに管理人のワイドさんがこちらに来て、現場を見て口を開けている。 「リカルド様! 女中(メイド)からの報告で参ったのですが、あまりの速さに驚いております」 「魔法を使わせて頂きましたので。木には手を触れておりませんので、傷も付いていません。ご安心ください」 「いやはや…恐れ入りました。これほど早い仕事はここにお仕えして30年で初めてでございます。追加報酬を付けさせて頂きますので、またの機会がございましたら、是非リカルド様にお願いしたく存じます」 「光栄です。こちらこそ再度ご縁を頂けましたなら是非」  深々と頭を下げ、その場を後にした。  追加報酬までもらえるとは運がいいな。魔法師団本部も近いし、ギルドへの報告は後にしてこのまま向かう事にしよう。
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